〔連載〕生きものと歩む “環境農家”の愉しみ
雑木林とは、本来「人の手で維持されている林」のこと。しかし近年では「木材にならない雑多な木々」という意味で誤用されることがあるようです。
人間にとって木材にならない木々も、生きものたちにとっては、快適で立派な住みか。木の配置や植える種類、伐採のタイミングなど、人工的に「デザイン」された今森光彦さんの雑木林では、たくさんの生きものに出会えます。前回の記事はこちら>>
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第10回 雑木林をつくる
冬のアトリエの雑木林。林縁に沿って建物と門をつなぐアプローチがある。早朝は、木々の影が林床に落ちて美しい模様をつくる。植えたのはクヌギやコナラの主木だけで、実のなる中高木はすべて野鳥たちが運んできた。約30年前に購入した雑木林「萌木の国」と同じく薪炭林(しんたんりん)の管理をしている。
「雑木林は“循環の森”」
裏の畑を散策していると森の中から荘厳な音が響いてきます。小椋(おぐら)神社の太鼓です。この神社は、たたずまいが美しくとても閑静で、仰木に住んでからは初詣にも訪れています。普段は静寂に包まれているのですが、新年を迎えると神事が続きます。
焚き火が恋しい季節になると雑木林のことを思う日が多くなります。雑木林の落ち葉は、裏の畑の土作りになくてはならないものですし、伐採した幹や枝は、アトリエで長年、薪ストーブや、焼き釜などに使ってきました。我が家のエネルギーの供給源になっているのは、アトリエの雑木林と湖北地方にある「萌木の国」です。
「萌木の国」は、私が撮影に通っていたお気に入りの雑木林の一角にあります。あるとき、別用途のため、そこの木々がすべて撤去されることになり、決死の覚悟で個人トラストを実行し、2ヘクタールの雑木林を買いとることにしました。当時すでに放置され気味だったため荒れていたのですが、最初は家族で整備しました。30年近く前のことです。管理者となってから色々なことを経験し、当時シイタケ栽培をされていた農家の人から雑木林のイロハも教わりました。
雑木林は、十数年に一度大伐採をします。根元から一斉に木々を切り倒し、環境はリセットされます。「萌木の国」では、今までに2度この大イベントを体験していますが、翌春になると切り株の脇から新芽が吹き出してきます。その様子を間近で見て、木々たちの生命力に感動せずにはいられません。この感覚は、我が子のように育てている木々だからこそ味わえるものでしょう。
2024年、大伐採をした「萌木の国」。伐採後は、広葉樹の甘い香りがする。翌年は、木々の芽が吹き出し、「萌木の国」が新しく生まれ変わる。切った木は量が多いので、プロのシイタケ農家さんに買い取ってもらう。
「萌木の国」を長年にわたって世話をしながら記録することによって、私は雑木林の本当の豊かさを学びました。雑木林は、一般的には、クヌギやコナラなどの木々が整然と並んでいて、林内をやや背丈の低い木が陣取り、林床には花の咲く植物たちが生えている、そんなイメージがあります。
しかし、実際の雑木林は、色々な顔をもっています。伐採は、ある区画を一斉に行い、その直後は、平原のようになってしまいます。クヌギやコナラなどは、伐採後に十分な光が必要で、1本だけを切り取ると芽が出なくなってしまうのです。明るくなった伐採後では、萌芽更新がなされ、翌年から我先にと葉が広がります。平原は、一斉にスタートラインについた植物たちの競争の場になるわけです。
「萌木の国」にあるクヌギの古木“やまおやじ”。萌芽更新を繰り返す間に幹が太くなったもので、雑木林の象徴的存在。
刻々と変化する環境に、実に様々な生きものがやって来ます。ニホンジカは、意外に光が差し込む明るい林を好みますし、ホンドリスのように木々の背丈が高くなってからやって来る動物もいます。植物では、カタクリなどは、林床が明るい間は休眠していて、数年目にほどよく暗くなってから生き返ります。こんな植物はけっして珍しくありません。昆虫となると、もっと環境に敏感です。雑木林が自分にとって適切な空間になるのを待ってから利用します。
雑木林には、生きものがいっぱいいる、と言われます。それは、木々が成長する過程で様々な環境をつくりだし、ライフスタイルの違う多くの種類の生きものたちに生活の場を与えているからです。大伐採という十数年の時間軸と、四季という1年の時間軸、それらが螺旋状に絡まって複雑な生態系をつくっていると言えます。
一方、アトリエの雑木林は、「萌木の国」のようにバトンタッチではなく、ヒノキをすべて切って根も取り除き、山肌がむき出しの状態からはじめました。お蔭様で、ここでも森の再生を目の辺りにしたのでした。雑木林は、人の世話によって生物多様性が培われている“循環の森”だと思います。
雪で白くなったアトリエの雑木林とアプローチ。仰木では、このように積雪するのは、一冬に数えるほどでとても珍しい風景だ。
1月・畑の頼れる仲間たち
自宅の庭にあるしだれ梅の蕾が膨らみかけています。このしだれ梅が生えているのは畑の縁で、背後に銀色の峰を輝かせる比良山地が眺められて、私のお気に入りの場所になりました。シベリアからはるばるやって来る冬鳥、ツグミは、この梅の常連客です。
ツグミ
畑の一角の枯れ草の中で眠っているのは、キタキチョウです。幼虫がネムノキの葉を食べるので、天神川の近くで育ったのでしょう。日当たりが良い場所が好きで、裏の畑の土手によくやって来ます。
キタキチョウ
天神川の河口では、コサギに出会いました。サギの仲間は、白く大きく存在感があるので部屋の窓からでも観察できます。
コサギ