村雨辰剛の二十四節気暮らし庭師で俳優としても活躍する村雨辰剛さんが綴る、四季折々の日本の暮らし。二十四節気ごとに、季節の移ろいを尊び、日本ならではの暮らしを楽しむ村雨さんの日常を、月2回、12か月お届けします。
冬至~折形に学ぶ年迎えの支度

端正に和紙を折る村雨さん。几帳面なお人柄が映し出されるよう。
一年で最も昼が短く夜が長い「冬至」は、気持ちまでシンと静まりかえるようです。中国では、「一陽来復(いちようらいふく)」と言われ、極限まで弱まった太陽が「冬至」を機に復活する、一年の始まりと考えられていたそうです。同じような意味合いで、「冬至」を“太陽の誕生日”として祝う風習も多いとか。この日を境に、翌日から少しずつ昼が長くなると思うと、喜びに満ちるようですね。
また、12月の異名には「年満月(としみつづき)」という呼び方があるそうです。気忙しい「師走」という言い方よりも、一年が満ちる様子をあらわす「年満月」という気持ちのほうが前向きな印象ですね。僕も2025年の「年満月」の残りの日々を、感謝の思いで過ごしたいと思います。
錦織ほまれ先生(右)に教わりながら、真剣に折形を学びます。
今回はお正月の準備のために、折形で箸袋を作ることに。教えていただいたのは、
【大雪】の回で紋切り型をご指導くださった、装飾師の錦織ほまれ先生です。僕が出演している園芸番組で、折形を用いて切花を包むシーンがあったこともあり、折形は以前から興味のある日本文化でした。また、室町時代に武家の礼法だったということも、武士道に傾倒している僕としては、いつかは体験してみたいことのひとつでした。
箸を包む前に、先生から「祝箸」の意味についても伺います。陰陽思想では、丸を陽の形とするところから、お目出度い席で用いるのは丸箸。さらに両口である点も特徴的。僕たちが口にする側とは逆の天の側は、神様がお使いになると考えられ、祝いの場で人々がともに食事をすることは神人共食(しんじんきょうしょく)を意味しているそうです。その箸を包むわけですから、気持ちもぐっと引き締まります。
バランスを保ちながら几帳面に紙を折る姿に、村雨さんの真摯な人柄が表れます。
錦織先生がご用意くださった越前の清浄な和紙を前に、まずは姿勢を正します。きものと同様、どちらが前になるかで吉凶を表すということを改めて意識し、ひと折りひと折りに心を込めます。元旦に正月の膳を家族で囲むということは、神を招来して家族の一年の安全と健康を願いながら自然からの恵みを食べるということ。すべてに理由があることを知り、単に紙を折るというだけでなく、神聖な心持ちで折形に向かう時間となりました。
お正月は自宅に友人を招いて食事をするため、今年は祝箸を求め自作の箸袋でおもてなしをしたいと思います。皆さまもどうぞ良いお年をお迎えください。
完成した箸袋を眺めご満悦。

錦織先生がお持ちくださった折形のお屠蘇飾りを前に「いずれは挑戦したいです」と村雨さん。すっかり折形に魅了されたようです。
●ご指南役はこの方
錦織ほまれ装飾 日和(ひより)代表/装飾師。飾り紐・和紙・木工・漆芸・竹工など幅広い伝統技術を組み合わせた装飾品のデザイン・製作を行う。
https://www.hiyori-japan.com/
村雨さんが見つけた二十四節気

「雪の中で静かにたたずむライチョウの姿がとても愛らしく見えました」と村雨さん。庭園を白く染める雪景色にも思わずレンズを向けて。
村雨辰剛(むらさめ たつまさ)1988年スウェーデン生まれ。19歳で日本へ移住、語学講師として働く。23歳で造園業の世界へ。「加藤造園」に弟子入りし、庭師となる。26歳で日本国籍を取得し村雨辰剛に改名、タレントとしても活動。2018年、NHKの「みんなで筋肉体操」に出演し話題を呼ぶ。朝の連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」や大河ドラマ「どうする家康」、ドラマ10「大奥 Season2 医療編」など、俳優としても活躍している。著書に『僕は庭師になった』、『村雨辰剛と申します。』がある。