村雨辰剛の二十四節気暮らし庭師で俳優としても活躍する村雨辰剛さんが綴る、四季折々の日本の暮らし。二十四節気ごとに、季節の移ろいを尊び、日本ならではの暮らしを楽しむ村雨さんの日常を、月2回、12か月お届けします。
霜降~銀座で芸術の秋を満喫

「MAISON GEKKOSO」にて猪熊弦一郎の作品に心惹かれる村雨さん。
暦の上では、秋の最後の節気となる「霜降」。北国や山里では露が霜へと変わり、次第に冬の気配を感じる頃を意味するそうです。都心では朝晩に感じる“涼しさ” も、ロケで訪れる地域によっては“肌寒さ”という言葉が実感できるようになりました。今年の「霜降」は10月23日。次の「立冬」(11月7日)を迎えるまでの間には、「文化の日」があるので、僕の日常であまり馴染みのない芸術に一歩踏み込んで触れてみたいと思います。今回訪れたのは、一流の文化が交差する銀座。格調高いギャラリーが連なるこの街で、アート初心者の僕でも気軽に楽しめる場所があると聞いてさっそく向かいました。
「月光荘画材店」の地下に設えられた「MAISON GEKKOSO」にて。ご案内くださったのは3代目店主の日比康造さん。

「虫をじっと見つめる表情が、愛猫、メちゃんと重なるようです」と、村雨さんが見入った作品は、藤田嗣治によるもの。

1週間ごとにアーティストが入れ替わり、何度訪れても楽しめる「画室1」の空間にて。
訪ねたのは、煉瓦の瀟洒なビルに店を構える、1917(大正6)年創業の「月光荘画材店」です。ガラス越しに覗く1階には、壁一面に並ぶ絵の具をはじめ、バリエーション豊富なオリジナルのスケッチブックが所狭しと並びます。目指すギャラリーは地下にあると聞き、外階段を下りて扉を開くと、神秘的なコバルトブルーの壁が目に飛び込みます。「この色は月光荘にとって特別な色。戦前から上質な顔料を用いた純国産の絵の具の開発を手掛け、1940年に日本で初めて誕生したのが、最も難しい色とされたこのコバルトブルーなのです」。そう教えてくれたのは、3代目の店主・日比康造さん。
その神秘的な色を求め、名だたる芸術家が集った月光荘には、縁のあるレジェンドたちの作品が受け継がれているそうです。そのコレクションを気軽にいつでも鑑賞してほしいという思いから、2020年にカフェギャラリー「MAISON GEKKOSO」をオープン。僕が訪れた時には、藤田嗣治や猪熊弦一郎の作品をはじめ、月光荘の名付け親となった与謝野晶子の短冊が飾られていました。抹茶をいただきながら、貴重な作品を間近に見られるとは、なんと贅沢なことでしょう。さらに、奥に続く白壁の空間は「画室1」と呼ばれ、現代アーティストに作品発表の場を提供しています。歴史にその名を刻んだ画家の作品と、これから芽吹いていく表現者の作品を同時に展示するスタイルに、芸術に対する月光荘の懐の深さを感じました。
日比さんのレクチャーで、「月のはなれ」でいざ絵の具づくりを体験。

オリジナルの色をイメージしながら、一心にペーストを練り上げる村雨さん。
月光荘の絵の具の物語を聞きながら絵画を鑑賞したあとは、僕もオリジナルの絵の具づくりに挑戦することに。本来は埼玉県入間郡三芳町にある月光荘の絵の具工場で開催されているワークショップですが、今回は特別に画材店からほど近い月光荘のサロン「月のはなれ」で体験させていただきました。
赤、黄、青の三原色の配合から多彩な色が生まれる原理を伺い、僕は自分の苗字にもある「雨」をイメージ。青をベースに黄を少しずつ加え、絵の具を練り込むこと10数分。グリーン味をおびたオリエンタルな“村雨ブルー”が完成しました。意外だったのは、ボウルの中で混ぜていた色と、スケッチブックの白い紙に描いた色の印象が微妙に異なったことです。ヒタヒタと雨の雫を描くうちに、この透明感のあるブルーが、霜が降りる季節の冴えた空気のようにも思えてきました。無意識のうちに「霜降」の心象風景が引き出されたのかもしれません。
スケッチブックに向かう“村雨画伯”。

オリジナルの色に、満足そうな笑みがこぼれて。
●訪れたお店
月光荘画材店/MAISON GEKKOSO
住所:東京都中央区銀座8-7-2永寿ビル1F・B1F
電話:03-3572-5605
https://gekkoso.co.jp
村雨さんが見つけた二十四節気

ロケで訪れた、中根金作の作庭による京都・妙心寺の退蔵院庭園にて。秋の趣に染まる庭園を巡り、「丁寧に手入れを施された庭園は何度観ても飽きません」と村雨さん。
村雨辰剛(むらさめ たつまさ)1988年スウェーデン生まれ。19歳で日本へ移住、語学講師として働く。23歳で造園業の世界へ。「加藤造園」に弟子入りし、庭師となる。26歳で日本国籍を取得し村雨辰剛に改名、タレントとしても活動。2018年、NHKの「みんなで筋肉体操」に出演し話題を呼ぶ。朝の連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」や大河ドラマ「どうする家康」、ドラマ10「大奥 Season2 医療編」など、俳優としても活躍している。著書に『僕は庭師になった』、『村雨辰剛と申します。』がある。