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今森光彦さん「いきものと歩む“環境農家”の愉しみ」第7回 循環の香りがする土

2025.10.09

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〔連載〕生きものと歩む “環境農家”の愉しみ 
土作りは、農業のベースとなる仕事。ひと言で「土作り」といっても、どんな農業をしているのか、考え方や立場によってその方法はさまざまです。里山の生命のサイクルの一部となり、幼い頃の記憶にある、土の香りを再現する──。そんな「今森さん流」の土作りを覗いてみましょう。前回の記事はこちら>>

連載「“環境農家”の愉しみ」の記事一覧はこちらから>>

第7回 循環の香りがする土

秋になったら毎年訪れる柿畑。すべて甘柿だ。色づいてきた山々を背景に心から季節を感じることができる。畑の中に地道があり、そこを散策するのが楽しい。路傍には、ヨメナやツリガネニンジンなどの可愛い花がいっぱい咲いている。

「自分の感覚を頼りに土を作る」

柿の実の橙色が日に日に鮮やかになってゆきます。


裏の畑は、素人なりに頑張った甲斐あって土はサクサクとしてきました。畑作りは、農家の人の話を参考にしてきたのですが、基本的に三者三様、やり方はそれぞれ違います。土を耕さない自然農をやっている人もいます。この農法は、環境に優しくとても良いのですが、それなりに失敗の経験が必要。またそれとは逆に、プロの農家が実践している、化学肥料や石灰などを使ってしっかりと土を管理する方法もあります。どれが一番良いかは、畑を作る人のポリシーにかかってきます。

裏の畑の真上を、鰯雲がおおった。小さな雲の塊が並んでなんとも美しい。思わずため息をつきながら眺める。鰯雲は、上空の大気が乱れているときに現れるので、気候が変わる前兆だとも言われる。明日は、雨になるのだろうか。

レイアウト的に面白い畑というと、最近人気の「レイズドベッド」があります。これは、囲いを作って土を入れ、地面より高い位置で野菜を収穫する方法です。ガーデンのような感覚で、畑と草地のけじめがつくので、野面が広くとれます。屈まなくても良いので作業も楽になるなど色々なメリットがあります。

ただ、私がこの方法をとらないのには理由があります。それは、畑と草地が段差のために両者が隔離され、生きものの交流がなくなってしまうことです。極端な例ですが、草地のモグラが地中に潜ったまま畑地まで遊びに来るとか、オオイヌノフグリが草地から茎を伸ばして畑地で花を咲かせるとか、小さな命の繫がりがなくなってしまうように見えるのです。まあ、色々なやり方がありますが、溢れる情報に惑わされずに、自分の自然観を信じて、誰もやったことのない畑ができたら最高です。

ところで、私が実際に行った土作りの話をここでしておきましょう。

裏の畑は、田んぼだったので水持ちが大変良いです。この土は、“あまつち”と呼ばれ、重宝され、売買されることもあります。ただ、野菜作りには不向きです。私が最初にやったのは、畑の水はけを良くすることでした。これには、牛糞ともみ殻を使いました。牛糞は、発酵したものを知り合いの牧場から分けてもらいました。もみ殻の方は、専業農家からいただきます。これらを畑に撒いて中型の耕運機で攪拌します。

何週間かおいて攪拌を2回繰り返し、その後に、糠と枯れ草をすき込みました。そして最後に、腐葉土を混ぜ合わせました。腐葉土は、「オーレリアンの庭」で毎年秋に落ち葉が大量に出るので、それを一箇所に集めて腐らせたものです。腐葉土には、ダンゴムシやトビムシなどの土壌生物やバクテリアが数多く棲んでいて、土を見事に蘇らせてくれます。

「オーレリアンの庭」から運んできた落ち葉。雑木林の葉なので、すべて広葉樹だ。囲いをしておいて、このように堆積させて腐葉土にする。腐葉土は、畑の土作りには欠かせない。

山積みの落ち葉は、2年目になると地面近くが程よく腐り、カブトムシの幼虫たちの住処にもなります。カブトムシは、夏の終わりに卵を生んで、孵化した幼虫は、腐葉土を食べて育ち、2回脱皮をして10月頃、体長10センチほどになります。まるまると太った幼虫を見ると、あまりの大きさに、誰もが「わーっ」という歓声をあげます。

幼虫は大食漢なので、腐葉土が全部食べられてしまうのではと、心配になります。でも、大丈夫。幼虫は、長辺が1センチくらいの糞を大量にしてくれ、これが、腐葉土に劣らない優れた肥料になるのです。もし糞だけを集めることができたら、最高級ペレット肥料(小さな粒状の肥料)ができること請け合いです。

それと、忘れてはいけないのが、生ゴミの利用。これも土作りには絶大な効果があります。生ゴミは、山積みにしておくとカラスたちの餌食になりますので、板で囲ったり、市販のコンポストを利用したりして保管するのが良いかと思います。このようにしてオリジナルブレンドの土が出来上がりました。

苦労しながらも、自分の感覚を頼りに土を作ると、なんとも麗しい匂いを運んでくれて、里山の循環を心地よく感じることができます。

刈り取った草も肥料になる。一箇所に山積みにしておいて利用する。


10月・畑の頼れる仲間たち

気候が良くなると生きものたちに触れ合うチャンスが増えます。植物も秋の様相なのでとても華やかです。畑に咲いていたコスモスの花にツマグロヒョウモンがやってきました。ツマグロヒョウモンは、メスの前翅が黒く、別の種類に見えるほど印象が違います。幼虫は、スミレの葉を食べるので、とても身近な蝶です。

ツマグロヒョウモン

土手のイヌタデにハネナガイナゴがとまっていました。体に褐色の筋模様が入っていて、それが保護色になって草むらの中に隠れてしまいます。

ハネナガイナゴ

渋柿の枝で体を休めているのは、ヒヨドリです。まだ甘くなるまでには半月以上かかります。きっと、様子を窺いにやってきたのでしょう。

ヒヨドリ

文・切り絵/今森光彦 撮影/今森元希

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