村雨辰剛の二十四節気暮らし庭師で俳優としても活躍する村雨辰剛さんが綴る、四季折々の日本の暮らし。二十四節気ごとに、季節の移ろいを尊び、日本ならではの暮らしを楽しむ村雨さんの日常を、月2回、12か月お届けします。
処暑~先祖を想う、祈りの形

精霊馬に興味津々の村雨さん。
「暑いですね!」というフレーズが挨拶替わりの今年の夏。まだまだ暑いですが、お盆を過ぎたら、ようやく陽差しや風にほんの微かな秋の気配を感じる日も出てきました。二十四節気では「処暑(しょしょ)」の頃。初めて出会った季節の表現を深く理解するために、漢字を調べることは僕にとって嬉しい習慣となりました。今回も早速「処」という漢字を調べると、 “とどまる、落ち着く”という意味があるそうです。つまり、「処暑」とは厳しい暑さが峠を越えて、ようやく落ち着きはじめること。また一つ新たな日本語をインプットできたところで、日本のお盆の習慣に倣って、精霊馬(しょうりょううま)というお供え物を初めて作ってみました。
「胡瓜は、どちらを頭にしようかな」と、シルエットを吟味。
スウェーデンには日本のような「お盆」がありません。日本には、胡瓜を馬に、茄子を牛に見立てた「精霊馬(しょうりょううま)」という風習がありますね。馬はご先祖さまがあの世から早く戻ってこられるように、牛はこの世が名残惜しくて、あの世へはゆっくり進む牛で帰る――。ご先祖さまを大切に想う“祈り"の心を、夏に収穫される身近な野菜に込めているのですね。こうしたお供え物を丁寧にこしらえることに、古の日本人の美意識と祈りの形が映し出されているのだと感じました。
鬼灯(ほおずき)で道を照らし、スイカで喉の渇きを潤してほしいという願いを込め、“村雨流の精霊馬”のお供えが完成。
作り方をいろいろとWeb検索していたら、より早くこの世に戻ってこられるようにと、胡瓜で車や飛行機を作っている画像も出てきて驚きました。僕ならバイクかなと一瞬頭をよぎりましたが(笑)、正気に戻り、せっかく作るなら姿のいい馬と牛を作ろうと胡瓜や茄子を十分に吟味。スーパーで売られている真っ直ぐな野菜ではなく、ナチュラルな曲線を描いているものを探すのにひと苦労しました。さらに、脚となる割り箸もそのまま使うのではなく、少し細めに削ってスタイリッシュな雰囲気に。こうして無心に目の前にある野菜と向き合う時間は、季節の節目であると同時に、忙しない日常のリセットにもなるのですね。来年もトライしてみたいと思いながらも、精霊馬を見たときの、うちの猫、メちゃんの反応が気になる僕でした。
撮影を終えたあとは、お供えしたスイカを食べるお楽しみの時間に。
村雨さんが見つけた二十四節気

「逢魔が時というのでしょうか。この時期の空は陰と陽のような色に染まりとても綺麗です」と村雨さん。メちゃんとともに、夕焼けに特別な思いをよせます。
村雨辰剛(むらさめ たつまさ)1988年スウェーデン生まれ。19歳で日本へ移住、語学講師として働く。23歳で造園業の世界へ。「加藤造園」に弟子入りし、庭師となる。26歳で日本国籍を取得し村雨辰剛に改名、タレントとしても活動。2018年、NHKの「みんなで筋肉体操」に出演し話題を呼ぶ。朝の連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」や大河ドラマ「どうする家康」、ドラマ10「大奥 Season2 医療編」など、俳優としても活躍している。著書に『僕は庭師になった』、『村雨辰剛と申します。』がある。