村雨辰剛の二十四節気暮らし庭師で俳優としても活躍する村雨辰剛さんが綴る、四季折々の日本の暮らし。二十四節気ごとに、季節の移ろいを尊び、日本ならではの暮らしを楽しむ村雨さんの日常を、月2回、12か月お届けします。
立秋~残暑お見舞い申し上げます

「画数の少ない文字ほどバランスが難しいですね」と村雨さん。
「立秋」を迎える8月上旬は暑さのピークが極まる時季。大暑から増した暑さが立秋で頂点に達した感じがしますね。日本に暮らしはじめた頃、天気予報などで「暦の上では、もう秋です」と聞くたびに、正直なところ不思議で仕方なかったです(笑)。そもそも二十四節気が古代中国から伝わったのは6世紀頃と言われています。暦が違っていたり、中国と日本の気候が異なるため、体感する季節を基準に歳時記に思いを馳せるのは難しいかもしれませんね。
それでも、古来の人が大切にしてきた風習にならって、今回は残暑見舞いを書くことに挑戦しました。
「実は書道など、文字を書くことが苦手で」と言いながらも、スウェーデン語をあしらいオリジナリティ溢れるデザインに。

落ち葉をイメージした挿絵もアクセントに。
メールが主流の現代だからこそ、あえて手書き文字を相手に贈るというのは、一手間の時間が込められ、とても素敵なことですよね。どんな言葉を綴ろうか考えを巡らせるなかで、8月の和名である「葉月」の由来を知りました。葉の落ちはじめる月という説のほか、稲穂が張り充ちる「穂張月(ほはりつき)」からきているという説や、雁が初めて来る「初来月(はつきづき)」など諸説があるそうです。そんな由来からしても、8月は“秋”という感覚だったということを改めて実感しました。さらに、8月の異名として、「萩月」「紅染月」「桂月」「秋風月」など、とてもロマンティックな名前があることも勉強になりました。
いろいろ調べてはみたものの、選んだ文字はシンプルに「立秋」という言葉。スウェーデン語の“秋”という言葉をあしらって、落ち葉をアクセントにデザイン。書道はまだ自信がないので、今回は日本の伝統色の水彩筆ペンを用いて、暑さの残る雰囲気と秋らしさを紅色や朱色を重ねて表現。僕なりの残暑お見舞いが完成しました。
和洋折衷な素敵なデザインが完成しました。

深緑から薄茶にうつろうグラデーションが美しい村雨さんの扇子。
最後にご紹介したいのが、深まる秋色に彩られた扇子です。以前、仕事の関係の方からプレゼントされたもので、渋い緑から淡い茶系に変化する扇面のグラデーションが、秋を迎える残暑の頃にぴったりです。扇子を開くと骨の部分に馬のシルエットがあらわれる凝ったデザインも美しく、駆け抜ける駿馬の姿に次の季節へ勇ましく向かってゆくような印象も受けます。普段使いにするには勿体無いため、夏きものを誂えた折に、きりりと使いこなしたいと思っています。
ここまで、秋に向かう話をしてきましたが、まだまだ暑い日が続きます。改めまして皆さま、残暑お見舞い申し上げます。
扇子をひらくと駿馬があらわれる、村雨さんお気に入りの逸品。

撮影が滞りなく終わって、特別な扇子でリラックスして涼むオフショット。
村雨さんが見つけた二十四節気

富山県の立山を仕事で訪れた際に、秋の便りを見つけたという村雨さん。「トンボのシルエットが入道雲に映えて思わず写真に収めました」と季節の移ろいに心を動かされたようです。
村雨辰剛(むらさめ たつまさ)1988年スウェーデン生まれ。19歳で日本へ移住、語学講師として働く。23歳で造園業の世界へ。「加藤造園」に弟子入りし、庭師となる。26歳で日本国籍を取得し村雨辰剛に改名、タレントとしても活動。2018年、NHKの「みんなで筋肉体操」に出演し話題を呼ぶ。朝の連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」や大河ドラマ「どうする家康」、ドラマ10「大奥 Season2 医療編」など、俳優としても活躍している。著書に『僕は庭師になった』、『村雨辰剛と申します。』がある。