村雨辰剛の二十四節気暮らし庭師で俳優としても活躍する村雨辰剛さんが綴る、四季折々の日本の暮らし。二十四節気ごとに、季節の移ろいを尊び、日本ならではの暮らしを楽しむ村雨さんの日常を、月2回、12か月お届けします。
夏至~強く、美しい和傘のように

傘を開く際に聴こえる和紙の重厚な音色にも風情が漂います。
一年で最も昼の時間が長くなる「夏至」。日の入り時間が遅くなるのはもちろん、目覚まし時計がわりに寝室に差し込む日の出時刻も早まり、“夏に至る”という言葉の通り、確実に本格的な夏へと向かっているように感じます。日本では梅雨時でもあるため、曇り空から昼の長さを感じにくいかもしれませんね。今回は、気持ちだけでも晴れやかになるように、梅雨時を楽しむ僕の特別な傘をご紹介しましょう。
「市松模様の部分が光を通し、傘を差していても暗さを感じません」と村雨さん。骨を彩る糸が独特の美しさを放ちます。
お披露目するのは、金沢和傘。出合いは2020年へと遡ります。テレビ番組で北陸の美を巡る旅へと出向き、この工芸品のような美しい和傘の存在を知りました。雨が多く、冬は日本海の湿り気を含んだ重い雪が降る金沢では、雪の重さにたえられる堅牢度が傘の第一条件。丈夫さはもちろんのこと、雨降りの日に雅な趣を添える、優美な細工が随所に施されていることも特筆すべき点です。
僕がかつて訪れた店は、明治29(1896)年創業の「松田和傘店」。まず、堅牢度を高める工夫として傘地は純楮(こうぞ)からなる厚手の手漉き和紙を主に用います。峰(外側の骨の部分)には柿渋や弁柄を加え、防水性と防腐性を強化。さらに、天井と呼ばれる傘の先端の和紙を4枚重ねにして、他ではみられない耐久性を増すための工程を踏んでいるそうです。
傘の先端は天井と呼ばれ、金沢和傘ではこうした耐久性を高める工夫が施されています。
さらに、僕が傘を開くたびに心躍る一番のポイントは、内側の竹骨を彩る糸の美しさです。松田和傘店では、これを“千鳥がけ”と呼び、工芸美と補強を兼ねています。さらに、遠目にはわかりにくいのですが、傘の縁の部分にも補強の役目を果たす糸をかけています。
金沢取材の思い出として、普段は家に飾っているのですが、二十四節気の連載を始めて日本の移り行く季節を意識することで、久しぶりに使ってみたくなりました。デニムスタイルにコーディネートしても、意外にマッチすると思いませんか? この強くて美しい和傘のように、僕も梅雨の憂鬱しさに負けずに雨を楽しみたいと思います。皆さんもお気に入りの傘をパートナーに、はつらつとお出かけください。
縁の部分に糸をかけることを、松田和傘店では“小糸がけ”と呼びます。

シックな柿渋の金沢和傘をブラックデニムの装いで楽しむ村雨さん。
村雨さんが見つけた二十四節気

梅雨の合間に、奈良を代表する池泉回遊式庭園「依水園」を仕事で訪れた村雨さん。「雨に濡れた苔や庭木の緑の美しさに目を奪われました」と語ります。
村雨辰剛(むらさめ たつまさ)1988年スウェーデン生まれ。19歳で日本へ移住、語学講師として働く。23歳で造園業の世界へ。「加藤造園」に弟子入りし、庭師となる。26歳で日本国籍を取得し村雨辰剛に改名、タレントとしても活動。2018年、NHKの「みんなで筋肉体操」に出演し話題を呼ぶ。朝の連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」や大河ドラマ「どうする家康」、ドラマ10「大奥 Season2 医療編」など、俳優としても活躍している。著書に『僕は庭師になった』、『村雨辰剛と申します。』がある。2025年7月10日~13日まで、舞台【シーボルト父子伝〜蒼い目の侍〜】にシーボルト役で出演予定。
https://x.com/siebold_fushi/