〔連載〕生きものと歩む “環境農家”の愉しみ 自然と人が調和する美しい環境を「里山」と名づけた今森光彦さん。人がきちんと手を入れた農地や森林でしか生きられない昆虫や動植物がたくさんいると言います。「環境保全」という言葉が叫ばれる昨今、私たちが今本当に守らなければならない「環境」とは、人と動植物が共存する日本の原風景なのかもしれません。
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第3回 畑で出会う小さな命
雑木林の中で木々の葉に包まれると、気持ちがゆったりしてきます。梢では、シジュウカラがさえずり、林床では、キマダラヒカゲがせわしなく飛び交っています。
田んぼの向こう側から、モリアオガエルやシュレーゲルアオガエルの鳴き声が聞こえてきます。彼らは、アマガエルより2回り以上体格がよいので、声量があり、谷間に響き渡ります。
湿度が高い梅雨時は、生命が一段と活気づく季節です。
アトリエ敷地内の雑木林で野鳥を観察する。30年以上前に、クヌギやコナラの幼木を植栽し、その後、薪炭林として伐採と下草刈りの管理を続けている。現在は多くの生きものが生息し、イノシシやシカもやってくる。
農地の中には、星の数ほどの生命が息づいています。それら生きものの暮らしの舞台となっているのが里山です。
里山という言葉は、今から30数年前に「自然と人が共存する日本古来の農業環境のこと」と定義して、使い始めました。まだそのころは、自然というと人間が手をつけない環境、という意味合いで使われていたように思います。
ところが実際には、身近な生きもののほとんどが雑木林や田んぼなど、人がつくった場所を利用しています。原生自然とは違うもう一つの自然が存在する、それを里山という言葉で表現しようと思ったのが始まりです。
当時からナチュラリストたちは、人がつくった環境に豊かな自然があることを知っていました。ところが、自然は人が支配するものという、西欧的意味合いに押されて、共存する自然というものをどのように考えてよいのか、だれもが腑に落ちない時期だったように思います。
「野良しごとは、生きもの支援」
そのころ話題になった生きものの一つに、オオタカがいます。私が写真家として仕事を始めた頃は、オオタカは、絶滅危惧種になっていました。原因は、雑木林や田畑の造成などによる環境の変化です。精悍な姿の鳥なので、森の奥深くに潜んでいるイメージがありますが、この鳥の営巣場所は、意外にも丘陵地にあるマツ、スギ、コナラなどが混生する雑木林です。これらは、人家と隣り合わせの場所なので、人の営みに歩調をあわせて暮らしてきた鳥だといえます。オオタカは、原生林ではなく里山林の住人なのです。
それから、オオタカの保護がさかんになり、生息地の里山が保全され、その甲斐あって現在は絶滅危惧種ではなくなりました。ただ、全国的な広い視野で見ると、保護されているのはごく一部で、彼らの生息環境が今も脅かされていることには違いありません。
里山の生態系の頂点に位置するオオタカとは対極の生きものを一つ挙げるとしたら、ベニシジミがよいかもしれません。
ベニシジミは、翅をひろげた大きさが500円玉くらいの可愛い蝶です。前翅は、橙色の地に黒斑があり、黒っぽい後ろ翅には、橙色の帯が装飾され、その上に青色の鱗粉がちりばめられていてとても綺麗です。こんな美しい蝶に畑で出会えることに私はいつも感謝しています。
青花シャガにやってきたベニシジミ。名の通り紅色をしたシジミチョウだが、新鮮な個体だと翅が角度によって銅色に光るので、西洋では、コッパーバタフライと呼ばれる。土手をチラチラと舞っていて、いつも目を楽しませてくれる。
この蝶は、花の蜜が大好きで、春はタンポポ、夏はヒメジョオンなど、畑の周りに咲くほとんどの花を訪れます。幼虫の食草は、スイバとギシギシ。どちらも低山から市街地までどこにでも見られる植物です。一回り小柄なスイバの方は、斜面がお気に入りのようで、棚田の土手には必ず生えています。ベニシジミが田畑の周りで見られるのは、吸蜜植物が豊富なだけでなく、大切な幼虫の食べ物がたくさん生えているからです。
スイバとギシギシは、たくましい植物に見えますが、田畑の管理がなされなくなり、色々な植物が伸び放題になってしまうと、影を潜めてしまいます。農家の人が管理をする環境は、草刈りなどのストレスに耐えられる植物にとっては最高の場所だといえます。
オオタカやベニシジミは、雑木林や田畑が放置されると姿を消してしまいます。里山には、このように人の暮らしと結びついている生きものが大変多いのです。環境農家を目指す私にとっては、「野良しごとは、生きもの支援」、そんな気持ちです。
カタツムリは、庭にいてほしい生きもの。土中に産卵し、農薬などに敏感なので、環境の良さを推し量る指標生物でもある。カタツムリがいる場所は、よい土がある証拠ともいえる。
6月・畑の頼れる仲間たち
キジは、適度に人の気配がある場所を好むようで、畑の周りをウロウロしています。カラスノエンドウの茂みなどに体勢を低くして隠れていることもあります。
キジ
庭には、オールドローズが咲きますが、アオハナムグリはいつも真っ先にやってきます。どうやら花粉を食べているようです。バラの若葉は、ハバチやオトシブミが大好物で、いつも虫食いだらけ。
アオハナムグリ
バラの仲間は、野生のノイバラもそうですが、小さな昆虫を間近に観察できるので、私にとっては貴重な植物です。
近くのため池では、若草色でとても美しいモリアオガエルが見られます。初夏になると、卵が入った白い泡が、池に張り出した木の枝にぶら下がります。
モリアオガエル