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今森光彦さん「いきものと歩む“環境農家”の愉しみ」第2回 農地を手に入れる

2025.05.08

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〔連載〕生きものと歩む “環境農家”の愉しみ 作物の収穫だけでなく、農地の生態系を守る“環境農家”として本格的な田舎暮らしを始めた今森光彦さん。移り住んだ自宅の裏手にもともとあった約800坪もの農地を、地元の専業農家の人々とかかわりながら、畑として家族と耕すことにしました。畑仕事や、そこにいる昆虫や植物の観察に没頭する理由は、幼少期に土や森と触れ合い、生きものとの出会いに夢中になった、自身の里山での思い出にありました。前回の記事はこちら>>

連載「“環境農家”の愉しみ」の記事一覧はこちらから>>

第2回 農地を手に入れる

木々の葉が成長し、田園は日を追うごとに新緑が広がってゆきます。田植えは真っ盛り、青空を写し込んだ水面はまるで鏡のよう。アマガエルの声が遠くに近くに響き渡り、生命の息遣いを強く感じます。

裏の農地は、10年以上前までは田んぼとして使われていました。放置された後は代理の人が定期的に草刈をされていたようです。野良の真っ只中ならそのまま放置ということもあり得ますが、ここは在所に隣接する場所、人の目を気遣っておられたのでしょう。

5月、田植えの頃の広々とした仰木地区の棚田。比叡山に向かって流れる天神川・大倉川沿いの田んぼは、日当たりが良く長年フィールドワークをしてきた場所で光の田園と呼んでいる。ここでは、今でも昔ながらの風景を楽しめる。

耕作放棄地であるこの田んぼは、引き継いでお米をつくるという方法もありましたが、やはり畑にすることにしました。田んぼも湿地という自然がありとても魅力的ですが、自分でやろうとすると素人にとっては難しい面があります。

専業農家の人に言わせると、米作りは野菜や果樹に比べると楽な仕事だ、と言いますが、水を扱う田んぼは、共同作業のようなところがあり、何かあったときに、野良に飛び出せる準備が必要です。畑の場合は、色々な種類の作物を植えたり自由に土地を散策できたりするので楽しいだろうと思ったからです。

農業をしながら様々な生きものに出会うことは私の目的でもあります。10年ほど前に農家申請をしたときに、自然との共存を目指すこのようなライフスタイルを私は“環境農家”と呼ぶことにしました。“環境農家”というのは、収穫だけを目的にするのではなく、そこで暮らす生きもののことも考えながら農業をする人のことです。これは、確立された分野ではなく私が個人的に理想だと思っている農家のあり方。私にとっては、ひとつの実験であり表現だとも言えます。

里山再生プロジェクトを進めている「めいすいの里山」のビューポイントから眺める仰木の棚田と琵琶湖。湖面中央に沖島が見える。この絶景は荒れていた森を整備して戻ってきた風景。「めいすいの里山」入園には届け出が必要。

“環境農家”は生産性はないのですが、そのかわり、農地に棲息する生きものたちと仲良くなれます。こんな暮らしは、プロの農業者から見ると遊んでいるようにしか見えないでしょう。

ただ、私と付き合いの長い専業農家の人たちは、新しい農業のあり方かも知れない、と一目おき、いつも瞳をキラリと光らせながら私の話を聞いてくれます。逆に私の方は、そんな彼らの生き生きとした表情に農業の可能性を感じ、心が熱くなってくるのです。

「土の匂いがする土地を取り戻したい」

随分前の話になりますが、私が小学生の頃は、家の近くの琵琶湖や田んぼなどが遊び場でした。そこは、いつ訪れても生きもので溢れていて、今から思うと本当に豊かな土地だったのだなと感じます。旧家が続く道の先には小さな神社があり、その裏手に菖蒲が茂るお堀があり、それを囲むように田畑が広がっていました。

私は、畑の一角にある野菜捨て場に必ず足を運びました。そのあたりは、一面に腐敗臭がしていたのですが、色々な生きものがいたのです。カナヘビが、コソコソと足音を立てて走り回り、キタテハなど熟れた果実を好む蝶たちもたくさん集まっていました。そこでアカタテハという蝶を初めて見て、翅の色の美しさに心から感動したのを覚えています。

当時は、化学肥料はなく、生ゴミはすべて腐らせ、発酵させて有機肥料として使っていましたので、漂っていたのは、現代の私たちが想像する腐敗臭ではなく、微生物によって有機物が分解されてゆく匂いだったのでしょう。このような肥えた土の匂いと、生きものとの出会いの衝撃がひとつに結びついて、忘れがたい思い出になっています。“環境農家”としては、今では希少になってしまった土の匂いがする土地を取り戻したいのです。

5月の「オーレリアンの丘」。開墾当時に植えた稲は架さ木ぎと呼ばれるクヌギの並木が、背後の比良山地に向かって延びる。一年間様々な仕事があり、時間がいくらあっても足りない。ここでは農家とガーデナーの両方の感覚が必要。

何でもない場所が、生きものが集まることによって、とてつもなく貴重な空間になります。“環境農家”には、奥底の記憶をたどりながら、子どもの頃の体験を再現したいという願いが込められています。

裏の農地のレイアウトがおおよそ出来上がってきました。草地が多いし、畝の並びもまちまち、見た目は素人農家。まあ、自分が好きな風景の中で楽しく畑作りができたら最高だと思っています。

5月・畑の頼れる仲間たち

土手やあぜにノアザミの花が咲き始めました。ノアザミの花は蜜がたっぷり詰まっているのか色々な昆虫がやってきます。ミツバチやナナホシテントウは毎日のように見かけます。

一番目につくのは蝶たち。アゲハチョウやクロアゲハなどの大型の蝶も訪れますが、可愛いのはセセリチョウの仲間。中でもダイミョウセセリは、翅を全開してとまり、黒地に鮮やかな白斑文様を見せてくれます。

ダイミョウセセリ

木立を見ると、アオバセセリが、食草であるアワブキの周りを飛び交っています。

アオバセセリ

土手に目をやるとカルガモが休んでいました。どこかで巣を作っているようです。

カルガモ

春の畑は、あまりにも賑やかなので、あっという間に時間が過ぎてゆきます。

文・切り絵/今森光彦 撮影/今森元希

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