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今森光彦さん「いきものと歩む“環境農家”の愉しみ」第1回 農家への扉を開く

2025.04.07

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〔連載〕生きものと歩む “環境農家”の愉しみ 比叡山から程近く、琵琶湖のほとりにある滋賀県・仰木地区。写真家の今森光彦さんは、昔から人と自然が寄り添って生きるこの地にアトリエを構え、40年以上にわたり里山をテーマにした撮影をしてきました。近年、大津市街からアトリエのある仰木に移住し、念願の田舎暮らしをスタート。あらゆる生きものと共存しながら農業をする、名付けて“環境農家”になるべく、新たな活動を始めました。長い間生きものを愛し、撮り続けてきた写真家ならではの、里山での新しい暮らし方を提案します。

連載「“環境農家”の愉しみ」の記事一覧はこちらから>>

第1回 農家への扉を開く

長年の夢だった本格的な里山暮らしがはじまりました。場所は、琵琶湖にほど近い大津市仰木というところです。ここにアトリエを設けたのが33年前、写真撮影に通いだしてからは40年を超えます。

「田園にすっぽりと抱かれたい」

今まで、無くなってゆく里山を取り戻すべく、アトリエの周りに雑木林やため池を作って蝶たちが集まる環境を「オーレリアンの庭」と名付け、観察を続けてきました。また、荒れ果てた農地を開墾した「オーレリアンの丘」では、果物や野菜の収穫にも挑戦してきました。

このようにフィールドとしてずいぶん長く付き合ってきた場所なのですが、年齢とともに、もっと田園にすっぽりと抱かれたいという思いが募ってきたのです。


“光の田園”にある棚田ザクラ。「オーレリアンの丘」のヤマザクラと同じく田植えの時期を知らせてくれる。種類はエドヒガンだという。背後に見えるのは比叡山。左手に、生物多様性を目指す里山保全地区“めいすいの里山”が見える。

仰木の在所は、農業者の高齢化によって、他地域と同様に空き家が多くなっています。こう言うと、よそ者が住むには、絶好のチャンスと思いがちですが、いざ売買となると色々な条件が浮上し、そう簡単にことは運びません。おまけに、私の場合は、住むのなら家の窓から大好きな比良山地が一望できる場所というわがままな難題を抱えていましたので、尚更出会いの確率が少なくなっていたのでした。

今回縁のあった土地は、実は、10年以上前に、私に地元のしきたりのことを教えてくれた農家の人から話が持ちかけられていました。そのとき、一目でロケーションが気に入り、すぐ住みたいと希望したのですが、うまくいきませんでした。家屋の中のご先祖を祀った仏壇がそのままになっていたり、本家のご兄弟のひとりが、手放すことを拒んでおられる事実も判明しました。これでは話にならないということで、あっさりと諦めました。

ところが、年月が経ち土地のことなどまったく忘れ去っていたある日、別の専業農家の方から、再び土地の話がありました。驚いたことにそれが10年前のあの土地だったのです。仏様の魂を抜き、諸々の条件をクリアし売買ができる状態で持ちかけてくれました。縁のある土地というのは、自然に舞い戻ってくるものだと、つくづく不思議に思います。

この土地が長年人の手に渡らなかった理由は、家の敷地の他に800坪ほどの農地がついていたことです。農地売買は、今のところ農業者しかできないので、都市から来られる人が手に入れにくかったのでしょう。

このような土地は、借りるという手もありますが、持ち主には、土地を継承してくれる人に渡したい、という強い思いがあったのでしょう。土地への愛情を重んじる考え方には共感が持てます。私の場合は、自分と関わってくれている生きものたちとも時間を共有したいと願っていますので、期限付きで借りている土地では目的は達成できません。

家の裏の畑。生産量は専業農家の人に負けるが、作物がのびのびと育っている分、味は美味しいと思う。収穫するだけでなく生きものにもいっぱい出会いたいので、草地を十分残して畝作りをする。農地は、観察フィールドでもある。

私が悩んだのは、敷地にある築数十年の古民家の利用法です。建物の雰囲気は良かったのですが、残念なことに部分的に柱が朽ちていました。ひとり暮らしの女性が亡くなってから十数年経過していたのでやむをえません。古材専門の知り合いに見てもらったところ、マツ材の大きな梁などは、とても貴重だということでした。梁をそのままにしてリフォームする選択肢もありましたが、結局、家族のライフスタイルなどのことを考えて、思い切って新しく平屋の家を建てることにしました。ただし、大きな梁だけは、廃棄するのはあまりにも惜しいので敷地の隅に保管してあります。

こうして1年がかりで念願の木造の家が出来上がりました。窓の外の景色は、私にとって最高の眺めになりました。比良山地の全貌が見渡せますし、遠くには琵琶湖面も眺められます。近景には神社の深い森が居座り、森の向こうには比叡山の峰も顔をのぞかせ、まるで巨大な庭園を観望しているようです。

新居のリビングからは比良山地の全貌が見渡せ、手前には小椋神社の常緑樹の森が広がる。晴れていると左手の奥に琵琶湖が顔をのぞかせ、対岸の長浜市や伊吹山地が望める。毎日四季折々の異なる風景が楽しめる。

私たちがここで愉しみながら実践している農や食、愛すべき生きものたちの姿などを、これから1年、田園の香りとともにお届けしたいと思います。

4月・畑の頼れる仲間たち

ヒメアカタテハ

春の畑は生きものであふれています。土手には、早春に誕生したばかりのベニシジミがチラチラと舞っています。畝と畝の間に生えるヨモギの若葉には、ヒメアカタテハが飛んだりとまったりしています。よく見ると腹部を曲げて卵を産み付けているではありませんか。ヨモギは、ヒメアカタテハの大切な食草でもあります。

カワラヒワ

カキドオシやタンポポなどが咲く土手には、カワラヒワがやってきて細い枯れ草をくわえて飛び去っていきます。きっと近くの木の梢に巣を作っているのでしょう。

エナガ

また、桜の木には可愛いエナガの姿も見られます。この鳥は、メジロと違って蜜が目当てではなくどうやら小昆虫を狙っているようです。

文・切り絵/今森光彦 撮影/今森元希

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