三浦百惠さんの愛情深さと創造性が際立つ、美しきキルト

三浦百惠（みうら・ももえ）
友人から贈られたベビーキルトに心惹かれ、パッチワークキルトを始める。1988年より鷲沢玲子さんに師事。これまでに制作した作品は100点以上。元歌手・女優。夫は俳優の三浦友和さん。長男の祐太朗さんはシンガーソングライター・歌手・俳優、次男の貴大さんは俳優。

鷲沢玲子さんの愛弟子の1人、
三浦百惠さんが上梓した『時間（とき）の花束』が今、静かな感動を呼んでいます

鷲沢さんが教室を始めてからずっと、生徒に話してきたことの1つが、「キルト作りの前にまず、日々の生活を大切にしましょうね」ということでした。

「キルトのために家庭をおろそかにするのはよくないですし、それでは長く続けられません。作品は少しずつでも縫っていけば、必ず完成するのですから、無理はしないこと。私はそれを“キルトを片手に持って”と表現するのですが、両手で抱えてしまったらほかのことができなくなるからです。

20年、30年と教室に通われている生徒さんはみなさん、この考え方に共感してくださっています。三浦百惠さんもその1人で、2人のお子さんを育てながら、上手に時間を作ってキルトに取り組んでこられました」。



話題の作品集より——三浦さんの愛情深さと創造性を物語る作品たち
人生初のキルトは独学での挑戦でした
「バスケット」のパターンと「ハートの花」のキルトは、独学で作ったとは思えない完成度の高さ。制作中に義姉のおめでたを知った三浦さんは出産のお祝いにプレゼント。赤ちゃんの名前と生年月日、「be happy」の刺繡に三浦さんの温かい祝福の気持ちが滲んでいます。●「ファースト・キルト」108×130センチ 1988年

1970年代に「山口百恵」の名で絶大な人気を誇った三浦さんが、鷲沢さんの生徒になったのは32年前。

年齢はひと回り以上離れていたものの、次男同士が同い年だったこともあり、すぐに打ち解けていきました。

キルト作家としての三浦さんを、鷲沢さんは「原色なども使った配色が巧み」と評します。



お母さまのきものを作品にした「ぬくもり le temps doux」
普段から和装が多かった三浦さんのお母さまが、少し華やかな席に招かれた際に着ていたきものの生地に、骨董市で見つけた帯などを組み合わせて作ったキルト。「母の華やいだ明るい笑顔を思い出すことのできる作品になりました」。●218×180センチ 1997年

そして、「制作中の集中力が素晴らしい。普通、キルトを作るときの集中力というのは徐々に身についていくものですが、三浦さんは最初から身につけていました。入会してまもなく、ご主人の友和さんの半纏を縫ったときも、驚くほどの集中力で進めていたのを覚えています。

また、布の組み合わせなどを1度決めたら、迷わず進んでいける潔さもキルト作りに向いていますね」。



花々でできたリースはタイムトンネル「ようこそ！ Soyez les bienvenus!」
蝶が軽やかに舞う作品の舞台は、印象派の画家・モネが最晩年を過ごしたジヴェルニー。時を超えて訪ねてきた人たちを、モネが「わが家へようこそ！」と柔らかな笑顔で迎える姿を楽しく思い浮かべながら作ったのだそう。●164×164センチ 2019年

2019年7月に日本ヴォーグ社より出版され、静かな感動を呼んでいる三浦さんの作品集『時間の花束』は、鷲沢さんのすすめもあって誕生したもの。

「三浦さんの生きてきた日々がそのまま作品になっています。この本を見て、キルトはいいものだなと改めて思いました」。

敬愛する師も感動を覚えた『時間の花束』。そのなかから、3点を特別にご紹介しました。