[現地特別取材]2026ミラノデザインウィーク探訪 海外インテリアの新潮流を訪ねて 世界のインテリアの潮流を決するといわれる「ミラノデザインウィーク」。ミラノサローネ国際家具見本市とミラノ市内のデザインイベント「フォーリサローネ」の2つを総称して呼ばれる世界最高峰のデザインの祭典です。真のデザインとは消費されるものではなく、長く愛され受け継がれるべきもの──そんなメッセージを色濃く感じとれる場となった今回、次代へ手渡す美のかたちを求めて、本物回帰へと向かう新たな潮流を探訪しました。
ミラノデザインウィークでインテリアの新常識を知る
文/本間美紀(インテリア&キッチンジャーナリスト)
ミラノサローネ国際家具見本市の代表ブランドの一つであるポッロのブース。収納家具のトップブランドとして知られています。会場内で切り妻屋根の空間を作り、自然光を再現する壁で囲んだ住まいを展示。ソファやベッドまでラインナップを広げ、収納家具でゾーニングされた空間を、建築的なアプローチで存分に披露しました。家具から小物を揃え、住んでいる人の気配までを伝える空間をピエロ・リッソーニがプロデュース。
インテリアはスモールアーキテクチャーに進化中
インテリアは、長い時間をかけて選び、自分らしく仕立てていくもの──。近年、多くの欧州家具ブランドが、こうした価値観を強く打ち出しています。1961年に始まったミラノサローネは、かつて新作家具やデザイナー作品の発表の場としての性格が主流でした。しかし現在、トップブランドの関心は、「スモールアーキテクチャー」へと大きく広がっています。
家具を単体で置くのではなく、住宅や別荘の設計段階から建築とともに考え、暮らし全体をデザインする。そんな空間提案が、ミラノデザインウィークでは数多く見られました。
日本では、インテリアというと模様替えや家具を買い替えるだけの発想になりがちですが、欧米では今、家具によって住まいの中に“小さな建築”をつくるという発想が広がりを見せています。そんな流れの中、ミラノデザインウィークは、家具を単なるモノとして見る場ではなく、インテリアと建築が一体化した空間を街全体で体感できる特別な一週間です。
ミラノサローネ国際家具見本市会場では、広さや高さの制限が少ない空間の中で、各ブランドが想像力を発揮。夢のようなインテリアを実現し、既成概念を覆す展示が来場者を魅了していました。ダイニングやソファ、ベッドに加え、大型収納や引き戸、ボワズリー、さらにはキッチンまで、住まい全体をブランドの世界観で統一できるよう、製品群を拡張する動きが目立ちます。また市内イベントでは、ショールームやストアを舞台に、より現実的な住空間を提案するブランドも多く見られます。アート展示やブランドヒストリーを通じ、世界観を伝える演出も印象的でした。自分に合うブランドを見つけ、人生を共にする住まいのパートナーと出会える。それもまた、ミラノデザインウィークの魅力でしょう。
さらにテラスや庭へと居住空間を広げる提案も活発です。オープンダイニングキッチンと屋外家具のテイストを揃え、庭と室内につながりをもたせる。あるいはベッドルームと内部を美しく照らすクローゼットを一体化し、洗練されたナイトエリアを演出する。そんな提案を多く見ることができました。
インテリアを計画することは、単に家具を買うことではありません。生活動線や収納計画といった機能面から、デザインや色彩といった感性まで、住まい全体を丁寧に整えていくこと。そこには、家族の人生そのものを表現する総合芸術としてのインテリアの姿がありました。
Tailoring Furniture
家具はテーラーメイドで
ミラノではソファやチェアの張り地から収納、キッチンの扉材まで素材やサイズをテーラーメイドする感覚が一般的。店頭のものをそのまま買う人はほとんどいません。多くのショールームが専用マテリアルルームを併設し、自分らしい個性を空間で表現する時代に。
1958年にルイジ・カッチャ・ドミニオーニがデザインしたチェアのクロームフレームを復刻。三原色や線から着想したアーティスティックな限定ファブリックを張り、“仕立てられた特別な一脚”を手に入れるのが、目利きの流儀。(B&B Italia/B&B イタリア)
Think Beyond the Room
部屋をゾーンと捉える
欧州では都市部で住宅の小型化が進む一方、郊外には豊かな邸宅も広がります。軀体が頑丈で空間に余裕があるため、壁で仕切らず家具で緩やかにゾーン分けする間取りが人気。その暮らしを支えるのが、スモールアーキテクチャー志向の家具です。
寝室も変化しています。ポルトローナ・フラウのショールームでは、窓際にデザイン性の高いベッドを配置し、キャビネットやラウンジチェアを組み合わせることで、寝室を寝るだけでなく終日過ごせる「エリア」として提案していました。(Poltrona Frau/ポルトローナ・フラウ)
Living with Responsible Choices
サステナブル製品を選ぶ
欧州の富裕層の住まいでは、地熱や太陽光を採用するなど環境配慮への姿勢も重要な価値基準。家具もリサイクル素材や植物由来樹脂の使用、修理や張り替え対応などを重視して選ぶ人が増えています。個人の暮らしが地球全体の幸福につながるというサステナブル意識が、インテリアにも広がっています。
アップサイクル素材活用を先導するカルテル。屋内外用チェア「CARA」は、環境負荷を抑えた樹脂と耐久性のある屋外用張り地を採用しながら、イギリス名門ファブリック、リバティとコラボレーションした座面でモダンかつフェミニンに仕上げています。(Kartell/カルテル)
Mixing New with Icons
新作と復刻をミックス
毎年新作を発表し続ける意味を問い直す中、近年の欧州ブランドは過去の名作を現代の素材や色柄で再編集し、新作と巧みにミックスする提案を強化。若い世代にも新鮮に映る過去の名作の新スタイリングは、カッシーナやB&Bイタリアなど名門ブランドの大きな見どころになっています。
カッシーナは復刻作と新作を巧みにミックスする展示を毎年提案し、このブランドの見どころとして定着。今年はバウハウスの影響を受けた復刻椅子と、ガエターノ・ペッシェの量感ある復刻椅子を組み合わせる大胆な演出が印象的でした。(Cassina/カッシーナ)
インテリア&キッチンジャーナリスト/Journalist
本間美紀 Miki Hommaインテリアの老舗専門誌『室内』編集部を経て独立。ハイエンド住宅の取材に加え、イタリアのミラノサローネ、ドイツや北欧のインテリア見本市、ブランド取材を30 年近く続けている。著書に『リアルリビング&インテリア』『リアルキッチン&インテリア』『人生を変えるインテリアキッチン』(すべて小学館)など。
(次回に続く。)
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