[現地特別取材]2026ミラノデザインウィーク探訪 海外インテリアの新潮流を訪ねて 世界のインテリアの潮流を決するといわれる「ミラノデザインウィーク」。ミラノサローネ国際家具見本市とミラノ市内のデザインイベント「フォーリサローネ」の2つを総称して呼ばれる世界最高峰のデザインの祭典です。真のデザインとは消費されるものではなく、長く愛され受け継がれるべきもの──そんなメッセージを色濃く感じとれる場となった今回、次代へ手渡す美のかたちを求めて、本物回帰へと向かう新たな潮流を探訪しました。
ミラノを代表する豪華絢爛な歴史的建造物、クレリチ宮殿を丸ごと貸し切った圧巻の展示で話題をさらったポリフォーム。普段は入ることができない貴重な文化的施設を生かした展示が、ミラノデザインウィークの醍醐味のひとつ。
2026年ミラノサローネが発信
“所有”から“継承”へ。ミラノが⽰す、未来へ⼿渡す美のかたち

第64回ミラノサローネは、32か国から1900 の出展、約31万⼈の来場者を記録。
©Alessandro Russotti Courtesy Salone del Mobile.Milano© Salone del Mobile.Milano
世界は今、かつてないほど多様で変化に満ちています。テクノロジーの進化、社会や経済の揺らぎ、価値観の多様化。そうした時代に、デザインはどこへ向かうのでしょうか。
4⽉21⽇から6⽇間、ミラノデザインウィークを巡りながら強く感じたのは、デザインが「消費」や「所有」の対象から、時とともに価値を深め、次世代へ⼿渡されてゆくものへと変化していることでした。そこには、アイデンティティやアート性、⼈の⼿が宿す価値への静かな回帰が⾒えていました。
市内スカラ広場に設けられた「デザイン・キオスク」。
©Alessandro Russotti Courtesy Salone del Mobile.Milano© Salone del Mobile.Milano
この潮流を象徴したのが、ミラノサローネに新設された『サローネ・ラリタス』です。国際的なギャラリー、⼯房、デザイナーなど28組が参加し、⼀点物、限定エディション、アンティーク、⾼度な職⼈技による作品が集結。従来はギャラリーやコレクターの領域にあった希少な“もの”が、巨⼤国際⾒本市の中⼼に置かれたことは、デザイン市場の価値観の転換を物語っています。
Salone Raritas

ミラノ拠点のデザイナーデュオ、フォルマファンタズマが“巨大な建築的ランタン”を着想源に手がけた展示空間。イタリアNilufarや英国Max Radford Gallery など、28組の国際的なギャラリーや工房、デザイナーが集結した。
©Saverio Lombardi Vallauri

ムラーノ工房のSalviatiは、イタリアのアーティストデュオ、ドラガ&アウエルとの協業で、ムラーノ工房の伝統を現代的なコレクタブルデザインとして表現。

スペインのSide Gallery は、剣持勇や柳宗理らによる戦後日本のモダンデザインの名作を、ジオ・ポンティに代表されるミラノモダニズム精神で演出。
この新企画を導いたのは、ミラノサローネの編集ディレクター、アンナリーザ・ロッソさん。「今、建築家やデザイナーだけでなく、ホテルのバイヤーやデベロッパーたちも、芸術的、⽂化的価値をもつ特別な“もの”を求めています。私たちは、それらと産業デザインを繫ぎ、共存と進化をいち早く読み解く存在でありたいと考えました」。今、空間に求められる価値は、機能や美しさを超え、その場の記憶、作家の思想、⼟地や⽂化に根ざす物語へと広がっていました。

Annalisa Rosso アンナリーザ・ロッソ
ジャーナリスト、デザイン・スペシャリスト。2022 年より編集ディレクター・⽂化イベントアドバイザーとしてミラノサローネに参画。Salone Raritas のキュレーター。仏Galerie Philia のスタンドにて倉俣史朗による「How High the Moon」に座って。
「未来に継承される美・デザインとは、私たちの記憶や感情を映し出すもの。“もの”の価値は、そこに宿る物語にもあるのです」。ラリタスが⽰したのは、量産から離れた価値、時間を宿すデザイン。過去の保存ではなく、今の感性を吹き込んだ、未来へと継承するデザインのあり⽅でした。
市内での特別企画『コモン・アーカイブ/デザインの⽩夜』では、普段は⼀般には閉ざされている資料館・財団施設にて50以上のガイドツアーとトークを通じ、150以上の建築・デザインの歴史的アーカイブを公開。ミラノのデザイン資源を、次代へ⼿渡す試み。
Courtesy Salone del Mobile.Milano© Salone del Mobile.Milano
この視点は、ラグジュアリー部⾨のパビリオン、「A Luxury Way」の中央に登場した特別展⽰『アウレア』にも、象徴的に表れていました。架空のホテルを舞台に、ラグジュアリーを物語的、体験的に表現した空間です。職⼈技に裏打ちされた素材や技術、静かな存在感を放つ照明やテキスタイル──ラグジュアリーとは、装飾・誇⽰的な豊かさではなく、“記憶や感情を呼び覚ますもの”として発信していました。
AUREA
an Architectural Fiction

A Luxury Way パビリオン内で展開された『AUREA』は、約600平方メートルもの架空のホテルを舞台にした没⼊型インスタレーション。インテリアデザイナーのオスカー・ルシアン・オノ⽒(右)率いるパリのインテリア・アートディレクションスタジオ「Maison Numéro 20」による空間構成。


バー、ラウンジ、スイートルームなどを巡る空間で、アールデコやシュルレアリスム、神話的要素を重ねながら、“新しいラグジュアリーの形”を物語的に表現。海洋プラスチックなどを3D印刷で家具へと再⽣するNagami Design との協働や、⾹りを空間体験に取り込むLʼOrchestre Parfumの採⽤など、素材、光、⾹り、物語が交差する構成が印象的。
アート、デザイン、クラフトの⾃由な交差を⽬の当たりにした今年のミラノデザインウィーク。共通していたのは、時を経ても輝きを増すものへのまなざしでした。何を暮らしに迎え、未来へ⼿渡すのか──そこに、これからの豊かさの輪郭が浮かび上がります。
(次回へ続く。)
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