11月・茶の実
三枝政代(料理家)白い花から金色のおしべがこぼれるように咲いていたお茶の木も、季節を重ねると、実はゆっくりと熟れ、殻が弾けて種が顔をのぞかせます。
この実が静かにポトンと落ち、それをそっと拾い集めるのを、幼いころは心待ちにしていたものです。
家紋のモチーフとしても親しまれている茶の実。晩秋になるところりとした実をつけ、種を宿す。
熱海の家の裏手の生垣は、お茶の木。
母の実家の家紋が“茶の実”であることから、植えられていました。
里の紋を気に入っていた母は、茶の実をモチーフにした様々なもの——筥迫や簪、器を手元に置き、慈しんでおりました。
実のついたお茶の枝を茶室に飾ることもしばしば。
子ども心に地味な床飾りだと思っていましたが、今はその一枝に、ほのかな野趣と儚さを感じます。
お母様がお嫁入り道具として持参された筥迫には、茶の実の柄のびら簪がきらめく。筥迫はいわば現代の化粧ポーチ。鏡や懐紙などを忍ばせて、きものの胸もとに差し入れる。ちらりと見える筥迫が、きもの姿のアクセントに。4代にわたって愛用されている宝物。
三枝政代(さえぐさ・まさよ)
1941年、東京都生まれ。東京藝術大学作曲科卒業。東京・青山で紹介制の料理教室を50年以上開催。四季を大切にした料理としつらいを提案している。Instagram:@msy_foodandhome_design
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