10月・菊尽くし
三枝政代(料理家)菊のしずくが滴った水を飲み、長命を得たという能楽の『菊慈童』でも知られるように、菊は長寿を象徴する花。
菊尽くし、菊唐草、菊水など日本人は昔から、菊をモチーフにした柄を愛してきました。
上生菓子の「はさみ菊」の中に忍んでいるのは栗あん。栗が大好きだったお母様を思いながらいただく。丸くととのえた生菓子にはさみを入れて、菊の花びらを切り出すことから、この名がついた。
手元にある菊を模した数々の装飾品は、この文様をとりわけ好んだ母が残してくれたもの。華やかな色合い、ふっくらとした縫いの見事さ、デザインの素晴らしさ。
お母様から譲られたコレクションから、菊尽くしの筥迫、漆に金蒔絵の菊が優美な櫛に根付、漆と鼈甲の帯留めなど。同じ菊をテーマにしながらも、描き出されている世界観は実に多様だ。
美しい品々を手に取り、慈しむこの時間に、色とりどりに咲き誇る菊の花や道端に揺れる野菊を愛でるよりも、深い秋の訪れを感じるのです。
三枝政代(さえぐさ・まさよ)
1941年、東京都生まれ。東京藝術大学作曲科卒業。東京・青山で紹介制の料理教室を50年以上開催。四季を大切にした料理としつらいを提案している。Instagram:@msy_foodandhome_design
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