人生を豊かにする猫のいる暮らし そばにいるだけで心を満たし、日々小さな幸せを運んでくれる“猫”という存在。一緒に暮らす楽しみや、猫モチーフを愛でるひとときなど、それぞれの「猫が好き」を集めた、猫愛に溢れる特集をお届けします。
スーパードクター・野村潤一郎先生に聞く SOSを見逃さないために、覚えておきたい猫の病気
いつまでも猫たちと幸せに暮らしたい飼い主にとって、やはり気になるのは病気のこと。家庭画報本誌ではおなじみの「野村獣医科Vセンター」の野村潤一郎院長に、今気にすべき猫の病気について伺いました。
野村潤一郎1961年、東京生まれ。東京・中野の動物病院「野村獣医科Vセンター」院長。北里大学獣医学部獣医学科卒業後、研修医を経て、1991年「野村獣医科医院」を開業。猫のみならず、爬虫類や両生類などペット全般を診療する獣医として全国に存在が知られる。著書多数。弊社からもエッセイ集『ソロモンと奇妙な患者(クランケ)たち』『ダーツよ、鉄(くろがね)の城を見張れ』『
動物医の不思議な世界アニマルQ』を刊行。
インタビュー前編はこちら>>24時間で死に至る尿砂粒症(FUS)
もう一つ気をつけたい重要な病気が尿砂粒症です。膀胱にサラサラ状のパウダーがいっぱいできて尿道が詰まり、尿閉するというオス猫特有の病気です。おしっこをしたいのに詰まっているから出せないので、トイレで踏ん張る。人間的な考えではこれが便秘に見える。だから間違って浣腸したりしているうちに死んでしまう。おしっこが出なくなると24時間で死に至ります。トイレに何回も行って踏ん張っていたらこれを疑ったほうがいい。
この病気の原因の一つは早すぎる去勢です。発育不全で小さいペニスは尿道も細く、その弊害が出るわけです。
猫のペニスはシャープペンシルの先みたいで、ジェットノズル式で尿をスプレーするような構造になっているのですが、ただでさえ小さいのに、早い去勢でもっと小さい。大きくても1センチ、多くは3ミリくらいでツルツルなのです。こんなに小さいペニスだったらこの奥の尿道もさぞかし細いだろうと思わされることが多い。
もっとも、かかりつけの獣医さんが「早く去勢するように」と指導しているなら仕方ないので、他で気をつけるしかありません。注意したいのが「ご飯の出しっぱなし」です。

猫という動物は完全肉食動物なので、腹ぺこの状態がデフォルトです。鹿や馬のように四六時中草を食べているわけではない。ちゃんとおなかが減っている時間を作ったほうがいいのです。
腹ぺこの状態のときの猫のおしっこはpHが酸性なのですが、おなかいっぱいになるとアルカリ性になります。アルカリ性の汚れにはクエン酸、酸性の汚れには重曹を使い分けるように、猫の膀胱内の環境が交互にアルカリ性と酸性に変わることで、アルカリ性のときにできたパウダーは、腹ぺこ状態の酸性の尿で溶ける。猫たちはそうやってセルフクリーニングしているのですが、ご飯を出しっぱなしにすると腹ぺこにならないので、パウダーができやすくなるわけです。
ミネラルウォーターもやめておいたほうがいいでしょう。パウダーができやすくなってしまいます。与えるのは水道水でまったく問題ありません。
そして経験上、尿砂粒症はペルシャやヒマラヤンなど毛の長い猫に多い。獣医の教科書にも書いていないことですが、長毛、早すぎる去勢、出しっぱなしのご飯、これが尿砂粒症に確実になる最悪の条件です。
治療は時間との闘いです。発見が遅く、膀胱がパンパンで鉄の球みたいにカチカチにななり、腎不全になって嘔吐している猫も来ます。この場合超音波の棒を尿道に入れて尿道の砂粒を砕きます。緊急事態のときは麻酔で死ぬこともあるので麻酔なしに行うこともあります。そして膀胱洗浄。もっとひどい症状のときは手術で陰茎を摘出し、骨盤部尿道を引き出して、陰嚢の皮膚を使って女性器を作ります。
飼い主が気づきにくい癌
癌(腫瘍)は和猫・洋猫にかかわらずどちらも多いです。腎不全と比較したら全然少ないですが、珍しいかというとそうでもない。うちの病院は癌患者が多く、全体の2割くらいは癌患者です。和猫は長生きするほど癌になるし、洋猫は元々癌の遺伝子を持っている子がいて、若くして癌になりやすいのはこういった純血種です。早いと5~6歳で発症します。特に多い癌は鼻と口。だいたいが首から上で具体的には歯茎、咽、鼻腔ですが、犬と違って猫の癌はほぼ100%悪性です。
治療はまず摘出。うちの病院ではなるべく大きく手術で取って、その後、レーザーやレプリチン、ハイブリッドベクターなど最先端の武器で駄目押し的に癌細胞を物理的に攻撃します。癌細胞を緑色に染めて、緑にだけ反応するレーザー光線を照射してやっつけます。レプリチンは、薬剤を癌細胞に蓄えさせて、レーザー光線を当てるとそこだけ熱くなって癌細胞が死ぬというものです。
癌は気をつけようがありません。飼い主が気づいたときにはかなり進んでいるので、獣医が早く気がつくかどうかが予後にかかわってきます。
ガラスで仕切られた空間が野村獣医科Vセンターの猫の入院室。室温は高めに設定され、窓からの眺めも配慮されている。

個人病院でありながら3DCTも装備。
野村獣医科Vセンター東京都中野区松が丘2-5-1 野村Vセンタービル
TEL:03(3228)0678
(営)9時~11時、14時~19時
年中無休
「猫の特性」を知って「猫の気持ち」になる
野村先生が教える──
猫の健康を守る飼い主の仕事8つ
1 野村説「猫8匹の法則」猫は集団ストレスに弱く、ストレスが免疫力を低下させます。私が前からいっているのが「猫8匹の法則」です。なぜか8匹以上飼うと誰かに病気が出る。9匹目を飼うと誰かが病気で死ぬのです。多頭飼育は要注意です。相当に広い空間がないと、猫のストレスになります。
2 ご飯は時間を決めてあげる肉食動物である猫は基本的に空腹な状態が通常です。満腹状態が続くと変調を来します。そういう意味でご飯の出しっぱなしはNG。時間を決めて、空腹な状態をつくるようにしてください。ご飯タイムに、マタタビやチュールなどもあげて楽しむのもいいでしょう。
写真/らい〈PIXTA〉
3 キャットタワーはただのインテリアではないキャットタワーがいいのは、猫にとって快適な室温を高さで選べるから。寒ければ上にいて、暑ければ下にいます。適温は25度くらい、年寄りの猫や子猫なら28度くらいが適温です。また猫は外が見えないといらつくので、外が見える窓辺のタワーが猫にとって快適な居場所なのです。
写真/前田絵理子〈アフロ〉
4 猫のストレスの一番の原因は飼い主?コロナのときになぜか下痢の猫が病院に多く訪れました。家にいる時間が長くなり飼い主が猫の不調に気づくようになったせいかもしれませんが、もしかすると朝から晩まで飼い主がいることに猫がストレスを溜めて病気になったのかもしれません。猫は人工的な音に敏感です。
5 トイレは猫の数だけ揃える猫を2匹飼っているのなら、猫のトイレも2つあることが理想です。トイレにこだわる彼らにとって、共同トイレは結構過酷なのです。おしっこを我慢したり、変なことになりかねません。猫の頭数だけ専用トイレを用意して、ストレスを軽減してあげましょう。
6 子猫とは遊んであげよう猫は大体飼い主によそよそしく、どちらかというと「放っておいてほしい」という動物です。でも子猫は寂しがりやなので、遊んでやらないと向こうからやって来ます。子猫のうちはたくさん遊んであげてください。大人になると落ち着いて寝る時間が長くなります。
7 一年に1回は動物病院に一年に1回は動物病院に予防注射に行くようにしてください。気の利いた獣医なら予防注射のついでに血液検査もするでしょう。猫の癌などは飼い主はなかなか気づかないので悪化しがちです。年に1回であれ、そこで獣医が病気に気づくことは多いのです。
8 飲み水は水道水をあげる水はいつでも飲めるように置いておいて、朝昼晩と頻繁に替えてください。水道水でOK。水をたくさん飲んでいる猫のほうがやはり腎不全になりにくいです。猫の口の中はばい菌が多いので、小さなフィルターしかない循環式の給水器はあまりおすすめしません。
写真/yuki〈PIXTA〉
(次回へ続く。)
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