インテリア

世界にひとつの茶箱で特別なティータイムを楽しみませんか?

香川漆芸の未来を担う作家たちが語った
茶箱制作の舞台裏

ロイヤル コペンハーゲンの器の美しさを際立たせながら、香川漆芸ならではの魅力も伝わる箱。決して容易ではない課題に、人間国宝の山下義人さんとともに挑んだのは、山下さんも実力を認める3名の漆工芸作家でした。


人間国宝の山下義人さんとともに茶箱の制作に取り組んだみなさん。蒟醤による加飾は藪内江美さん(右)、彫漆による加飾は石原雅員さん(中)、漆を素地に塗る「髹漆(きゅうしつ)」と蒔絵による加飾は山下亨人さん(左)が担当。それぞれ複数の受賞歴を持つ、香川漆芸の未来を担う作家たちだ。

蒟醤(きんま)の加飾とともに模型の製作にもかかわった藪内江美さんは、「ただの箱ではなく、品格とデザイン性があるものにするため、アール(カーブ)をつけて柔らかさを出すなどの工夫をしました。山下先生も、箱の形についてはかなり時間をかけて吟味されたと思います」と話します。


蒟醤
漆を塗り重ね、蒟醤剣で文様を彫る。彫った溝に色漆を埋め、表面を平らに研いで余分な色漆を取り除き、文様を表現する。

彫漆を専門とする石原雅員(まさかず)さんは小簞笥の加飾を担当。「当初、加飾した板を取っ手にはりつけようかと考えていたのですが、山下先生が『持ったときの感触も大事にしたい』とおっしゃって、取っ手の側面にもかすかにアールをつけられたので、それを生かすために直接加飾しました。白からグレーのグラデーションを出すために、漆を11回塗り重ねています」。


彫漆
各種の色漆を通常数十回から数百回塗り重ね、その色漆の層を彫り下げることで文様を浮き彫りにする。


存清
漆を塗り重ねた作品に色漆で文様を描く。剣で輪郭や細部に線彫りを施したり、沈金をしたりして文様を引き立たせることもある。

山下義人さんの長男、亨人(こうじん)さんは、箱に漆を塗る工程と蒔絵による加飾に携わりました。「蒔絵は中央から外に向けて、ふわっとぼかしました。数年経つと、上にかけてある漆が透けて趣が変わってくるので、それも楽しみにしていただければと思います」。

今回のプロジェクトは、石原さんと藪内さんにとっては、人間国宝の仕事を間近で見られる貴重な機会でもありました。感想を尋ねると、藪内さんは「技術的なことはもちろんですが、常にロイヤル コペンハーゲンさんへの敬意を持って取り組まれる姿勢も勉強になりました」といい、石原さんからは「すべてにおいて妥協がない。先生ほど自分に厳しいかたを知りません」との言葉が返ってきました。

日頃から同じ工房で仕事をしている亨人さんは、「父は『作品の仕上がりにつながる』といって、仕事道具にも妥協がありません。愛用の定規も黒檀を削って自作したもの。見習いたいことばかりです」と話してくれました。

『家庭画報』の提案で2017年に始まった香川漆芸と海外の一流メーカーとのコラボレーションは、今回が3回目。過去2回もパンプスのヒール、ハンドバッグの片面という異色の試みでしたが、香川漆芸のみなさんは快諾。さまざまなハードルを乗り越えて作り上げられた作品は、香川漆芸の新たな可能性を見せてくれました。その進取の気風は、蒔絵が全盛の時代に、独自の漆工芸の道を切り開いた玉楮象谷(たまかじぞうこく)に通じるものがあり、私淑の精神といえます。今や現代アートの一大イベントとなった瀬戸内国際芸術祭の成功も、象谷譲りの県民性が一因かもしれません。しなやかに新しい挑戦を続ける香川漆芸のこれからに、ぜひご注目ください。


藪内江美さん作、乾漆蒟醤箱「寒夜(かんや)」。冬の街路樹をモチーフにした作品。雪国育ちの藪内さんが雪を待ちわびる気持ちが繊細に表現されている。


石原雅員さん作、彫漆箱「大聖堂のある街」。イタリア・フィレンツェを旅行した際、街全体が作品のような色だったことに感動して制作。


山下亨人さん作、蒔絵盛器「風になる」。若い頃に好きだったバイクの走行中に見た気持ちいい景色を思い出しながら作った作品。

表示価格はすべて税別です。

撮影/鍋島徳恭 福家大介(香川県) スタイリング/横瀬多美保 料理制作/久保香菜子 取材・文/清水千佳子

『家庭画報』2020年4月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。

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