「世界最高齢のアプリ開発者」若宮正子さん。ITへの興味と挑戦心の源とは

第18回　若宮正子 （ITエヴァンジェリスト）

自身でデザインしたエクセルアートの服を着て「第二の故郷」だという東京・丸の内仲通りを歩く。「父の職場も丸の内だったので親子2代で通っていました」。

若宮正子（わかみや・まさこ）

1935年4月19日東京生まれ。ITエヴァンジェリスト。1993年、58歳でパソコンを購入。64歳で円熟世代が交流するインターネットサイト「メロウ倶楽部」立ち上げに参加（現在、副会長）。ゲームアプリ｢hinadan｣の開発で2017年Apple社のカンファレンスに招かれた。

「終戦を迎えた10歳の夏。社会の価値観が一夜で180度転換するのを見て、自分のやりたいことを貫いて生きようと決めた」

人生を振り返ると、よくも悪くもすべて自分で考えて選んで決めて、生きてきました。その根底には、第二次世界大戦での敗戦があると思います。

物心ついた頃には戦争が始まっていて、小学校1年生で親元を離れ田舎に預けられたり、戻されたり。学童疎開中には伝染病で何人もの子どもたちが亡くなっていきました。人生や幸せなどを考える前にひもじさの中、いかにして生き抜くかで必死。そんな時代でした。

世の大人の変わり身の早さを認識したのは幼稚園時代。キリスト教の幼稚園に通っていたのですが、戦争が始まった途端、軍国主義に変節しました。そして数年後のある日終戦を迎えたら、大人たちは口々に「こうとなったら、アメリカ様様だ！」なんていっているわけです。

当時私は10歳でしたが、大人への不信感がはっきり芽生えました。一夜で価値観がガラリと反転するさまを目の当たりにしたので、大人のいうことを何でも聞いて振り回されるのはやめよう、自分で考えようと決めました。あの10歳の夏は忘れられません。



Microsoft Excelの罫線機能とセルの塗りつぶし機能を使う「エクセルアート」は若宮さんの考案。約20年間で200以上のデザインを制作。「今日の服のモチーフは朝顔なんです。紫と青、ピンクを塗ってみました」。

失敗したって気にしない、興味があるならやってみる

もう一つのターニングポイントは81歳のとき。ゲームアプリ「hinadan」の開発がきっかけで、Apple社のCEO、ティム・クック氏から「世界最高齢のアプリ開発者」と紹介され突然、世界的な有名人に。それ以来、周りの環境は随分変わりましたが、元来面白がり屋、新しいもの好きですし、やりたいことはとりあえずやってみて、今を楽しもうと思っています。



エクセルアートを団扇や巾着などに仕立てて。

デジタルに興味を持った理由、それは機械化が私の救世主だったから。丸の内の三菱銀行に就職した当初、手先が不器用でお札を素早く数えることができませんでした。会社のお荷物だと感じていたとき、世の中全体で機械化が進んだのです。機械に任せるところは任せ、クリエイティブな仕事を担当できるようになったのは幸運でした。



心電図のチェックなど、日々のヘルスケアにも役立つというアップルウォッチ。

コロナ禍で皆さんも気づかれたかもしれませんが、日本のデジタル化はアジア近隣の先進諸国に比べても10年は遅れていると思います。世界から取り残された現実が浮き彫りになった今こそ、挽回のチャンス。機械化を進め、人間だからこその感性や創造性を伸ばしていくことで国力の低下を防げるはずです。

デジタル庁会議の出席者には80歳過ぎの素人なんて、私1人。でも「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化を」の合言葉のもと、私も頑張りますよ。



若宮さんがパソコンで書いた人生のキーワード。81歳以降、デジタル庁の仕事や講演会などで休む暇もない毎日を送るが「メロウ倶楽部の仲間たちに支えられています。兄も会員なんですよ」。“まあちゃん”は幼い頃からの呼び名でハンドル名。