暮らしのヒント

大切な人の笑顔が何よりの幸せ。梶山 正さん、ベニシア・スタンリー・スミスさん

毎日を心豊かに生きるヒント「私の小さな幸せ」  京都・大原の自然と、そこに暮らす人々をこよなく愛する、イギリス出身のベニシアさん。夫の正さんと共に築き上げた、築100年の古民家での暮らしは、大きな注目を集めました。けれど体調を崩してからは、庭仕事や執筆が全くできなくなってしまったと話します。そんな中でも、二人は新たな幸せに目を向けるようになりました。一覧はこちら>>

第2回 梶山 正(山岳カメラマン)、ベニシア・スタンリー・スミス(ハーブ研究家)

梶山 正さんとベニシア・スタンリー・スミスさん

梶山 正(かじやま・ただし)
1959年長崎県生まれ。写真家。主なテーマは山岳自然風景。「日本百名山 冬期登頂記」を雑誌に連載中。著書に『ポケット図鑑 日本アルプスの高山植物』(家の光協会)、『山と高原地図「京都北山」』『関西の山あるき100選』(ともに昭文社)、『ベニシアと正、人生の秋に』(風土社)。

ベニシア・スタンリー・スミス
1950年イギリス・ロンドンに生まれ。ハーブ研究家。貴族社会に疑問を持ち、インドを旅したあと71年に来日。96年に京都・大原の古民家移住をきっかけにハーブ・ガーデンを始める。著書多数。NHK番組『猫のしっぽ カエルの手』にレギュラー出演中。

「私たちが受ける愛は、与える愛の中にある ── It is in the giving of love that we receive. ──」

僕の妻であるベニシアは、庭でハーブを育て、ハーブを使った料理やお菓子、化粧水、石けんなどを作ることを楽しんでいた。5年ほど前からベニシアは目が見えないと口にするので、病院で検査してみた。

視覚形成の中心を担う後頭葉の萎縮をきたすPCA(後部皮質萎縮症)という疾患であることを告げられた。目は悪くないが、視覚情報を脳が判断できないらしい。

「目が見えなくて、悲しい」と彼女は毎日のように泣いてばかり。
「そんなこと言い続けても仕方ないやん。できるだけ、いいことを考えるようにしようよ」

好きなガーデニングや読書ができなくなっても、おいしい料理は誰もが喜ぶはず。僕は料理のレパートリーを増やすため、日々新たな料理に挑んでいる。「おいしい」と全部食べてくれると幸せになれる。

心配して来てくれた友人のレベッカさんは、英語圏の友人たちの誰かが毎日ベニシアを訪ねに来てくれるネットワークを作ってくれた。

「歳をとってきたら、母国語で話すことが必要なのよ。母国語なら伝えたいことや気持ちがちゃんと言えて安心する」とレベッカさん。それだけでなく、西洋人は困った人を助けようという文化が根付いているのかもしれない。

一時期は絶望的に暗かったベニシアに、少しずつ笑顔が戻るようになってきた。目が不自由で何をしていいのかわからない不安な生活に、少しずつ慣れたこともあるだろう。

大切な人の笑顔が何より

「今の生活で何が幸せ?」

「近所を散歩すること。目が悪いから一人では行けないけど、友達が一緒に歩いてくれる。大原の森や山、道端に咲く花を見ながら歩くと気持ちがいい。新鮮な空気が吸えるし……、自分は一人ではなく、外の世界と繫がっているんだなあと感じるのよ」とベニシア。

ベニシア・スタンリー・スミスさんと友人

町内に住む友人の友美さんと。この日は冷たい風が強くて寒かったので、大きな声で喋りながら近所の農道を散歩した。

多くの友人や訪問介護員さんたちが助けてくれるのを見て、僕は自分のことばかりを考えて生きるのは大人げないと思うようになった。自分の仕事やライフワークの登山に関する願望など思うところはもちろんある。

でも、自分だけがやりたいことをやっても、それが幸せとは思えない。

梶山さんの庭のクリスマスローズ

庭のクリスマスローズが満開。寒い冬、ほかのどの植物よりも早く花を咲かせて、花の期間も長い。

僕は何をするにしても、ベニシアが楽しくいられるよう意識するようになった。そばに居る人が明るいと、周りの誰もが明るくなる。ベニシアが笑顔でいることが、僕の幸せと言える。

撮影・文/梶山 正

『家庭画報』2021年5月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。

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