家庭画報2026年9月号の特集「新しい“鮨の聖地へ”」。本誌発売に先立ち、日本各地の鮨の魅力を、外国人美食家の皆様に教えて頂きます。第2回目は日本食への造詣が深く、和食とタイ料理を融合したレストラン「美会」を開店したビア・ピーラゲート・チャロンパーニッチさんにお話を伺います。

●ビア・ピーラゲート・チャロンパーニッチさん タイ・バンコク出身。2006 年に来日し、立命館アジア太平洋大学で学ぶ。日本各地の名店を巡り食文化への造詣を深め、2021 年に和食とタイ料理を融合したレストラン「美会」を開店。食の魅力を国内外へ発信している。
お鮨を食べるためだけの旅をしますか? その魅力とともに教えてください。
鮨を食べるためだけに旅行することがよくあります。
鮨店は一度に迎えられるお客様の数がとても少なく、人気店は数か月前から予約が埋まってしまいます。そのため、まず鮨店の予約を取り、その後にホテルや飛行機を手配することがほとんどです。予約が取れなければ、その店で食べられる可能性は非常に低くなってしまいます。
鮨を目的とした旅の魅力は「旅に出る理由」を与えてくれることです。目的がなければ、つい同じ場所で過ごしてしまいますが、鮨をきっかけに新しい土地へ足を運ぶことで、毎回新しい発見があります。地方にはその土地でしか水揚げされない魚や、鮮度や漁獲量の関係で東京にはほとんど流通しない食材も多くあります。その土地だからこそ味わえる鮨との出合いは、地方へ行く大きな魅力です。
また、多くの鮨店はカウンター越しに大将と直接会話ができます。料理だけでなく、その土地の文化や歴史、食材への考え方などを聞くことができるのも、鮨旅ならではの楽しみです。さらに、その地域の郷土料理や食文化にも触れることができるため、私にとって鮨の旅は、おいしい料理だけではなく、その土地そのものを知る旅でもあります。
お鮨を食べに足を運ぶべき地域とお鮨屋さんは?
私にとって、鮨を食べる旅では「どの街へ行くか」よりも、「その店へ行くこと」が目的です。そのため、東京以外の地方へ鮨だけを食べに行くのは、珍しいことではありません。
①群馬県館林市
私が最もおすすめしたいのは群馬県館林市にある
「鮨おばな」です。海のない群馬県にありながら、日本全国から鮨好きが訪れる名店です。1968年創業の2代目・尾花 輝大将は20歳で店を継ぎ、常に新しいことへ挑戦し続けています。地方だからこそ自分の店へ足を運んでもらう必要があるという強い思いから、何十年も前から独自のスタイルを追求し続けてきたと話していました。また、大将は現在も自ら豊洲市場へ足を運び、魚を仕入れています。卓越した目利きは業界内でも高く評価されており、長年築いてきた市場との信頼関係によって、「やま幸」の本まぐろをはじめ、東京の名店にも引けを取らない最高品質の魚を仕入れています。さらに、おつまみも握りも独創性が高く、ほかの鮨店では味わったことのないひと皿に出合えることも、この店の大きな魅力です。私にとって「鮨おばな」はわざわざ群馬まで足を運ぶ価値のある一軒です。
●鮨おばな
住所:群馬県館林市大手町5-1
現在、ご新規様は受け付けておりません。


②愛媛県
愛媛県は、穏やかな瀬戸内海と豊かな宇和海という異なる海域を持ち、それぞれの海の特徴を生かした多彩な魚介類が楽しめる地域です。近年は漁師の藤本純一さんを中心に、魚の品質向上や価値向上への取り組みが進み、全国の料理人から大きな注目を集めています。その活動に共感した有名な鮨職人や料理人が愛媛を訪れ、生産者との交流や情報交換を重ねることで、地域全体のレベルがさらに高まっていると感じます。
その結果、
「くるますし」をはじめとする評価の高い鮨店が次々と生まれ、東京をはじめ全国から美食家が訪れるようになりました。よい魚があるだけではなく、生産者と料理人が一緒になって地域の価値を高めていることが、今の愛媛の大きな魅力だと思います。
●くるますし
住所:愛媛県松山市一番町1-6-9
TEL:089(932)3689
営業時間:17時~、19時30分~の2部制
定休日:水曜日・不定休
予算:おまかせ2万7500円

③三重県
伊勢湾と熊野灘という2つの豊かな海に囲まれ、季節ごとの魚介類が非常に豊富。さらに、桑名のはまぐり、伊勢海老、あわび、松阪牛など、日本を代表する食材が数多く揃う、全国でも有数の食材王国です。
最近では、東京などで経験を積んだ料理人や鮨職人が地元へ戻り、その土地ならではの食材を最大限に生かした店を開く動きも増えています。鮨では
「こま田」のような素晴らしい店もあり、生産者との距離の近さや、地元食材への深い理解が、その土地ならではの唯一無二の体験を生み出しています。
これからの地方鮨は「よい魚がある地域」が評価される時代ではなく、生産者・漁師・料理人が一体となって地域の魅力を発信できる地域が、多くの人を惹きつける時代になると思っています。その意味で、愛媛県と三重県は、今後の日本の地方鮨を代表する存在になっていくと期待しています。
●こま田
住所:三重県伊勢市河崎2-14-18
TEL:0596(28)7747
営業時間:18時~22時
定休日:不定休
予算:おまかせ3万8500円 要予約