エッセイ連載「和菓子とわたし」
「和菓子とわたし」をテーマに家庭画報ゆかりの方々による書き下ろしのエッセイ企画を連載中。今回は『家庭画報』2026年8月号に掲載された第50回、村治佳織さんによるエッセイをお楽しみください。

vol. 50 和菓子の記憶を辿って
文・村治佳織
1997年の春に高校を卒業し、その年の8月に私は留学先のパリへと旅立った。何もかも新鮮な経験。1人暮らし、新しい友達、多国籍の料理、そして新しい先生に就いて学ぶ音楽表現。ホームシックになっている暇もないほど刺激がたくさんあった。
学校にも生活にも慣れてきて、カフェ巡りもたくさんしたが、そのうち、和菓子を食べられるお店がパリに もあると知って驚いた。30年近く前のことなので、今、世界を席巻している抹茶ブームは影も形もないわけだが、上生菓子をパリで食べられることに密かに感動した。他文化を受け入れるフランスの豊かさと海外の街へと展開していく日本の気概、両方をその時、実感した気がする。
お団子、おはぎ、草餅、子どもの頃から普通に親しんできた和菓子だが、上生菓子の美しさに心をときめかせることが年に何度もある。好きが高じて、京都で上生菓子作りの体験をしたことも。グラデーションが本当に美しいし、和菓子から季節の移り変わりを感じさせてもらえるとは、日本に生まれて良かったなぁと心から思う。
なんでもない日に、あの美しい上生菓子と美味しいお茶を入れて自宅でいただく幸せ。喜びを誰かとシェアしなくても、十分、自分の心の中で満たされる、そんな経験を何度もしている。今年の夏の始まりには、どんな上生菓子をいただけるかを考えるだけで、ふわっと心が軽くなる。
それからいつも楽しみにしているのが、年に数十カ所、演奏で各地を訪れる際にその地域ならではのお菓子に出会えること。観光をする時間はないが、主催者の方からいただいたり、差し入れでいただくお菓子が、その街を訪れた証として記憶に残っていく。そしてお菓子は気持ちを切り替えるときに大きな役目を果たしてくれる。
ステージに立ってギターを構えれば一瞬にして演奏する音楽の世界へと集中するのだが、楽屋では美味しい和菓子に、スタッフ、ヘアメイクさんとともに会話も弾む。ギターとともに旅をしながら、これからも心ときめく和菓子に出会っていきたい。
村治佳織(むらじ・かおりギタリスト。東京都生まれ。15歳でCDデビュー後、英国の名門レーベルDECCAと日本人初の長期専属契約。国内外のオーケストラとの共演やメディア出演など多方面で活躍。2025年10月、最新アルバム『エターナル・ファンタジー』をリリース。2026年4月には静岡音楽館AOI第3代芸術監督に就任。
宗家 源 吉兆庵
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