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自然、時間、人の手が生み出すシャンパーニュ「クリュッグ」。その源泉を訪ねる

2026.04.29

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ロンドンの華やぎからフランス・シャンパーニュ地方アンボネイの静けさへ。クリュッグが描く時間と調和、そして食の中で完成するシャンパーニュの本質に迫ります。

クリュッグのシャンパーニュ造りの核心に触れる特別なツアーへ

今年2月のロンドンで体験した、クリュッグとマックス・リヒターの音楽が交差する時間は、ひときわ華やかな体験でした。

ロンドンの記事はこちら>>

グラスの中に広がる繊細な香り、静かに響く旋律、洗練された空間に身を委ねる人々。完成されたシャンパーニュを“分かち合う喜び”に満ちたひとときでした。その体験を踏まえ、参加したのがシャンパーニュ地方アンボネイ村で開催された「KRUG Behind the Scenes 2026」。このイベントは、限られたメディアおよびワインジャーナリストのみが招待される機会であり、完成されたシャンパーニュではなく、その背景にあるワイン造りのプロセスに触れることを目的としたものです。


アンボネ村の畑。クロ・ダンボネは、この石壁に囲まれたピノ・ノワール100%の単一畑から生まれる。

アンボネイ村の畑。クロ・ダンボネは、この石壁に囲まれたピノ・ノワール100%の単一畑から生まれる。


同じクリュッグでありながら、ここで出会った時間はまったく異なるもの。朝、特級畑クロ・ダンボネに立つと、ひんやりとした空気が頬に触れ、足元の土の感触が静かに伝わってきます。遠くでかすかに鳥の声が聞こえるだけで、あとは驚くほどの静寂。あのロンドンの夜の華やぎは、まるで遠い記憶のように感じられました。クリュッグのシャンパーニュは、この静けさの中で育まれます。ロンドンで味わった「クリュッグ クロ・ダンボネ 2008」は、わずかこの0.68ヘクタールの単一畑から生まれる希少なキュヴェで、その個性を純粋に映し出す一本です。

単一畑から生まれるクリュッグ クロ・ダンボネ 2008(Krug Clos d’Ambonnay 2008)。テロワールの個性を純粋に反映したキュヴェ。ロンドンでの完成された華やかな印象に対し、アンボネでは早朝の静けさの中で、その緊張感と純度がより明確に感じられた。

単一畑から生まれるクリュッグ クロ・ダンボネ 2008(Krug Clos d’Ambonnay 2008)。テロワールの個性を純粋に反映したキュヴェ。ロンドンでの完成された華やかな印象に対し、アンボネイでは早朝の静けさの中で、その緊張感と純度がより明確に感じられた。


一方でクリュッグの真髄は、複数年のワインを重ねるアッサンブラージュ(ブレンド)にあります。創業者の名を冠したワイナリー「ヨーゼフ」は、アンボネイに新たに設けられた醸造施設。そのセラーに一歩足を踏み入れると、温度と湿度が保たれた空気に、外の世界とは異なる時間の流れを感じます。グラスに注がれたのは、まだアッサンブラージュ前のワイン。あるものは引き締まった酸を持ち、あるものはやわらかく広がる果実のニュアンスを湛えています。それぞれは未完成でありながら、すでに明確な個性を持ち、その違いを感じ取ることができます。

クロ・ダンボネの畑の前に位置する新醸造施設、ジョセフ ワイナリー(Joseph Winery)。約300区画の個性を保持するため、樽とタンクを併用した分割醸造が行われている。

クロ・ダンボネの畑の前に位置するワイナリー「ヨーゼフ(Joseph)」。約300区画の個性を保持するため、樽とタンクを併用した分割醸造が行われている。

アッサンブラージュ前のベースワインとリザーヴワイン。区画や収穫年ごとの個性を比較しながら、最終ブレンドの判断が行われる。

アッサンブラージュ前のベースワインとリザーヴワイン。区画や収穫年ごとの個性を比較しながら、最終ブレンドの判断が行われる。


セラーマスターのジュリー・カヴィル氏は、「それぞれのワインが持つ個性と役割を見極め、ひとつの調和へと導いていくことが重要です」と語ります。リザーヴワインを用いることで、単一年では表現できない奥行きと複雑さを生み出しています。

アッサンブラージュを理解するためのセッション。ベースワインとリザーヴワインの試飲および解説が行われ、セラーマスターのジュリー・カヴィル氏がその説明を担った。

アッサンブラージュを理解するためのセッション。ベースワインとリザーヴワインの試飲および解説が行われ、セラーマスターのジュリー・カヴィル氏がその説明を担った。

ガストロノミーの中心にあるべきシャンパーニュを目指して

その象徴が「クリュッグ グランド・キュヴェ」。最新の174エディションでは、2018年を軸に、2001年まで遡る10のヴィンテージから143種類のワインを使用し、約4割をリザーヴワインが占めています。異なる年の個性を調和させることで、毎年新たな表現が生まれます。

一方、「クリュッグ 2013」は単一年のブドウのみを用いながら、複数の区画、品種の個性をアッサンブラージュしたシャンパーニュ。冷涼な年ならではの引き締まった酸と緊張感が際立ち、その年の特徴を純粋に味わうことができます。

左から、クリュッグ 2013(Krug 2013)と、クリュッグ グランド・キュヴェ 174エディション(Krug Grande Cuvée 174 Édition)。アッサンブラージュによるスタイルの再現と、単一年による個性表現という、対照的なアプローチを示す。

左から、クリュッグ 2013(Krug 2013)と、クリュッグ グランド・キュヴェ 174 エディション(Krug Grande Cuvée 174 Édition)。アッサンブラージュによるスタイルの再現と、単一年による個性表現という、対照的なアプローチを示す。

クリュッグのテイスティングルーム。ベースワインやリザーヴワインの多様な要素を比較しながら、アッサンブラージュの判断が行われる。

メゾン・ド・ファミーユ内のテイスティングルーム。6代目当主のオリヴィエ・クリュッグ氏が生まれ育った歴史的な邸宅であり、新作キュヴェの発表の場としても用いられている。


その思想は、ガストロノミーの中でも明確に表現されていました。前夜、ランスのメゾン・ド・ファミーユでのディナーにおいて、6代目のオリヴィエ・クリュッグ氏は、シャンパーニュは祝祭のためだけではなく、「食の中心にあるべき存在」だと話します。

料理は、ランスにあるミシュラン三つ星シェフ、アルノー・ラルマンによって監修され、ワインの個性を引き出すことを前提に構成されていました。キャビアと魚介の旨みを重ねた前菜には、クリュッグ グランド・キュヴェ 173 エディションが寄り添い、ヨードのニュアンスと複雑な層が際立ちます。熟成バターで火入れした玉ねぎを添えた平目の一皿は、クリュッグ 2006の繊細な香りを引き出していました。さらに、仔羊のローストにはレモンを効かせたソースを添え、肉の旨みと酸がクリュッグ ロゼ 29 エディションと調和しています。単なる料理との組み合わせにとどまらず、シャンパーニュの個性を引き出すための工夫がされていました。

「ジョセフ ワイナリー」に並ぶ樽。約4,300の樽が用いられ、ベースワインは発酵のため約3ヶ月間このカーヴで管理される。樽を動かさない設計やロボットによる洗浄などにより作業負担が軽減され、女性を含むすべてのスタッフが働きやすい環境が整えられている。

ワイナリー「ヨーゼフ」に並ぶ樽。約4,300の樽が用いられ、ベースワインは発酵のため約3ヶ月間このカーヴで管理される。ロボットによる洗浄など樽を動かさない設計により作業負担が軽減され、女性を含むすべてのスタッフが働きやすい環境が整えられている。


ロンドンで感じた華やかな瞬間と、アンボネイで触れた静かな時間。それらは対照的でありながら、同じ一本の中でつながっています。クリュッグのシャンパーニュとは、時間を重ね、調和を導き、食の中で完成していく体験なのだと、改めて実感しました。

お問い合わせ/MHD モエ ヘネシー ディアジオ
https://www.mhdkk.com/enquiry

取材・文/石黒かおり

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