エッセイ連載「和菓子とわたし」
「和菓子とわたし」をテーマに家庭画報ゆかりの方々による書き下ろしのエッセイ企画を連載中。今回は『家庭画報』2026年6月号に掲載された第49回、南 果歩さんによるエッセイをお楽しみください。

vol. 49 初めてのお茶席
文・南 果歩
高校時代に、7歳上の姉が通っていた地元の裏千家の茶道教室に連れて行かれたことがありました。その頃の私は、学校生活とバトントワリングの部活動や習い事、アルバイトで目一杯の時間割をこなしていたので、その日は久しぶりの休日だったこともあり、出かけることに億劫でした。
姉と約束していた日曜日の午後。
「もうちょっと寝ていたいから、お茶に行くのやめるわ」軽く姉にそう伝えると、「今日はお庭で流しそうめんもやってくださるし、絶対に楽しいから行こ行こ」半ば強引に、寝ぼけ眼のままお茶席に引っ張って行かれたのでした。
初めてのお茶席。お作法も何もわからないままノースリーブのブラウスとミニスカート姿の私は、隣に座る姉の所作を見様見真似で辿る内に、言葉のないその世界の面白さを少し感じられた気がしたのです。正座で痺れた足よりも、お茶席に並んでいる女性たちの立ち居振る舞いに目が離せませんでした。
そしてそのお席で出された和菓子が、今まで食べてきたものとは一線を画す美味しさだったのです。初夏にふさわしい色合いの、若草色と黄色の和菓子だったと記憶しています。上品な甘さ、美しい色、餡は白、後味はスッキリとしていて、夢の世界を口に含んでいるような気がしました。和菓子を頂いた後、初めて口にした薄茶にも驚いたことを覚えています。
お茶を飲んでお菓子を食べるのではなく、お菓子をいただいてからお抹茶を飲むのか。いろんな初体験が、その日曜日にありました。
あの和菓子を知った日から時は経ち、私が茶道を細々と続けているのは、きっとあの日の和菓子との出会いがあったからでしょう。
季節を感じ、出会いを感じ、そして味わう和菓子。
姉はずっと英語の勉強を続けていたので、日本文化に興味を持ったのだと思います。異文化に入っていく時に自国の文化を話す機会が増えるのは、今ならよく理解できます。私は4人の姉たちから様々な影響を受けてきましたが、美味しい和菓子への目覚めもまた、嫌がる私を誘ってくれた姉のおかげです。
南果歩(みなみ・かほ)俳優。1964年兵庫県生まれ。84年に映画「子のために」で主演デビュー。以降、テレビや映画、舞台で幅広く活躍。 著書にエッセイ「乙女オバさん」(小学館)、絵本「一生ぶんのだっこ』(講談社)。新刊「還暦スマイル」(小学館)が好評発売中。
宗家 源 吉兆庵
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