エッセイ連載「和菓子とわたし」
「和菓子とわたし」をテーマに家庭画報ゆかりの方々による書き下ろしのエッセイ企画を連載中。今回は『家庭画報』2026年4月号に掲載された第48回、板垣李光人さんによるエッセイをお楽しみください。

vol. 48 きんつば
文・板垣李光人
祖母の家の匂い。少しやけどしそうなくらい熱い炬燵(こたつ)と日本茶。そして、きんつばの窮屈そうに詰まったあんこと舌をざらりと滑る薄皮。私の和菓子の原点はそこにある。
祖母の家にはとりどりの茶器が揃っていたのだが幼い私はとりわけ、小さな人形があしらわれた中国茶器が好きだった。その茶器に注がれた日本茶ときんつばをいただくことは、小学生の私にとって小さな足で精いっぱい背伸びをするような時間。
生意気ながらも白砂糖の洋菓子よりも和菓子のやさしい甘さのほうが自分の身体に溶け込むような感覚があったと思う。これもまた精いっぱいの背伸びなのだ。
ただそれは、祖母がわざわざ近くのバス停から店まで赴き私に和菓子を食べさせようとするやさしさ、愛にあふれた家という空間がそうさせていた節もあるのだろう。
その空間から離れた今もなお、私の日常には和菓子がともにある。百貨店に行けば必ずと言っていいほど、デパ地下の和菓子コーナーを物色している。今頃は桜の形を模した上生菓子たちが花を咲かせている頃だろうか。
自分で買うにとどまらず、仕事でご一緒する方々からもよく和菓子の差し入れをいただく。この上ない喜びだが、私の知らないどこかで「板垣李光人=和菓子」の方程式が出来上がっているのではと感じると、少しばかり恥じらいも覚える。
そんな与太話は置いておいて、大人になった今、和菓子との向き合いかたも変化してきているように感じる。この忙しない憂き世を忍ぶために和菓子と茶とは、ドラクエで言うところのベホマズンのようなものだ。
お気に入りのやちむんの茶器でゆっくりと茶を淹れ、和菓子の包装を剝がす。蓋を開ければ、机上に小さな四季が宿る。それを丁寧に口に運び、味蕾の凹凸と確かにあんこが溶け合うような感覚に
「ああ、無常」と、レ・ミゼラブルよろしく脳が感嘆する。
短い賞味期限、四季の移ろいを閉じ込めた儚い和菓子に思いをはせる時間こそ、最上級の回復魔法なのだ。
人の一生も同じく無常。私の和菓子の原体験からも十数年は経過した。しかしどんな銘菓でも、どんな上等なものでも、祖母の家で味わったきんつばに勝るものはない。またいつか、味わうことはできるのだろうか。
板垣李光人(いたがき・りひと)俳優。2002年生まれ。18年に『仮面ライダージオウ』で注目を集め、その後『silent』『どうする家康』など、数々のドラマ、映画で活躍。和菓子好きを公言している。今年、主演映画『口に関するアンケート』が公開予定のほか、3月28日に4月始まりのカレンダーが発売。
宗家 源 吉兆庵
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