エッセイ連載「和菓子とわたし」
「和菓子とわたし」をテーマに家庭画報ゆかりの方々による書き下ろしのエッセイ企画を連載中。今回は『家庭画報』2025年6月号に掲載された第43回、武冨 豊さんによるエッセイをお楽しみください。
vol. 43 ふるさと文・武冨 豊「和菓子」とマラソンとは縁がないように思えます。
車は、ボディは軽くエンジンは大きいほうがスピード性能を上げるのには良いと言われていますが、マラソンも自分という重りを、いかに長く、いかに速く動かすかが本質的動作です。体重が少ない程、動きやすくなり速く走れます。しかし、ただ体重を少なくすれば良いと言う訳ではなく、一定の範囲内で身体の構造を保つ事が必要となります。
指導者が、体重を落とす事を指示するだけでは、選手は身体も心も壊れてしまう事を念頭に置いて、選手と向き合っていく事が大切だと思っています。選手には良い成績が出せた時や頑張って練習が出来た時、美味しいお菓子を食べて「自分へのご褒美」として、次に頑張る楽しみにして欲しいと薦めています。
さて、田舎育ちの私の和菓子と言えば、家の畑で採れた小豆を煮て作った「あんこ」を使い、正月や彼岸の時に作ってもらった「ぜんざい」や「ぼたもちやおはぎ」、たまに隣町から買って来てもらった土産の「羊羹」です。
日本の和菓子の代表格と言えば羊羹を思い浮かべますが、実は羊羹の起源は中国のようです。鎌倉~室町時代に中国の羊肉スープが羊羹として日本に伝わり、日本の禅僧が肉食を禁じられていたため、精進料理として小豆を羊肉に見立てて作られるようになったのが日本の羊羹の始まりと知った時には驚きました。昔、家で小豆を煮て作っていた「あんこ」がその時代から続いて羊羹に進化したと知り、ますます田舎の羊羹に愛着が湧きました。
私が帰省した際、故郷で買って帰るのが「昔ようかん」です。小さい時には、表面が白く固くなったのは安い羊羹と思って食べていましたが、今では表面が砂糖で固まった中に、もっちりとした歯ごたえがたまらない。
たまにしか帰省出来ない私にとって「昔ようかん」の土産は、自分へのご褒美です。
武冨 豊1954年佐賀生まれ。天満屋女子陸上競技部前監督。同部が創部した92年にヘッドコーチとして入社し、96年に監督に就任。オリンピック6大会に5人の選手を送り出す。2010年の全日本実業団対抗女子駅伝優勝、日本陸連強化委員会の女子マラソン・長距離強化にも携わるなど、長年女子長距離指導で活躍する。
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