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名古屋の料亭「八勝館」 北大路魯山人が愛した、市中の山居

2026.09.18

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名古屋・金沢──おもてなしの総合芸術世界に誇る「料亭物語」料亭は、日本人が大切に育んできた文化や美意識を、五感で体験できる場所。美味なる料理はもちろんのこと、建築や庭園、美術工芸、その土地の歴史までもが、“おもてなし”として融合する総合芸術です。この美しき文化を継承し未来へと繫ぐ、二つの料亭を訪れました。

八勝館──名古屋
北大路魯山人が愛した、市中の山居

名古屋市東部にある「八勝館」は、門3棟を含む9棟が国の重要文化財に指定された瀟洒な木造建築の美しさを楽しめる料亭です。市街の一角に位置しながら、約4000坪の庭園が広がる敷地の中に流れているのは、清らかでゆったりした時間。

秋は紅葉、春は桜花と、四季の移ろいを感じさせる日本庭園。緑の絨毯のような見事な苔も見どころの一つ。昼席は散策も楽しめる。

秋は紅葉、春は桜花と、四季の移ろいを感じさせる日本庭園。緑の絨毯のような見事な苔も見どころの一つ。昼席は散策も楽しめる。


稀代の芸術家、北大路魯山人が幾度も訪れ、自らが築いた器と料理の世界を託した料亭といわれています。「魯山人先生とのご縁は、初代主人の杉浦保嘉が先生の営む『星岡茶寮』での展示会に招かれたことに始まりました。茶人でもあり陶芸への造詣も深かった初代は、一目で作品を気に入って20点以上を買い上げたそうです」と女将の杉浦香代子さん。以来、魯山人はたびたび八勝館に足を運び、器が焼き上がれば送り、その生涯を終えるまで家族ぐるみでのつきあいが続きました。


右・星岡茶寮の献立や、魯山人の手紙からも親交がうかがえる。左・庭で撮影された写真。右端が初代、隣が魯山人。

右・星岡茶寮の献立や、魯山人の手紙からも親交がうかがえる。左・庭で撮影された写真。右端が初代、隣が魯山人。


また、食に対して格別なこだわりを持つ魯山人は、来訪するたびに板場の料理人に細かく指図をしたのだそう。「素材選びを大切に、持ち味を最大限生かすよう手を掛けすぎずシンプルに仕上げ、できたてをお出しするのがうちの料理」と料理長の三田浩充さん。その端正な料理には、天然の味を尊び、食材本来のおいしさを大事にした魯山人の料理哲学も息づいています。

魯山人がうろこごと食べるところに風情とおいしさがあると説いた若狭ぐじ姿焼を、幅約50センチの織部秋草文俎板鉢に盛って。“食器は料理のきもの”として器と料理の関係を重要視していた魯山人が考案したとされるまな板皿は、力強い造形で圧倒的な存在感を放つ。

魯山人がうろこごと食べるところに風情とおいしさがあると説いた若狭ぐじ姿焼を、幅約50センチの織部秋草文俎板鉢に盛って。“食器は料理のきもの”として器と料理の関係を重要視していた魯山人が考案したとされるまな板皿は、力強い造形で圧倒的な存在感を放つ。

伝統を受け継ぐ板場の料理人たちと庭の景観を守る庭番で、女将の杉浦香代子さんを囲んで。香代子さんの左隣が三田浩充料理長。

伝統を受け継ぐ板場の料理人たちと庭の景観を守る庭番で、女将の杉浦香代子さんを囲んで。香代子さんの左隣が三田浩充料理長。

使ってこそ輝く、名品たちと触れ合う

「注文した覚えのない作品が送られてきたり、途中で破損してしまった器が入っていても、初代主人はすべて請求書の額面どおり支払っていたそうです。心から魯山人先生の才能に惚れ込んでいたのでしょう」と話す杉浦さん。250種類を超える器を筆頭とした、書画や花入、照明や調度品など多岐にわたるコレクションは日本屈指のもの。

左・口取りの鱧寿司とはじかみ、車海老姿塩焼、栗渋皮煮、松茸酒塩焼、銀杏松葉さしを盛り合わせた、伊賀釉鎬四方鉢。右・季の花をいけて。

左・口取りの鱧寿司とはじかみ、車海老姿塩焼、栗渋皮煮、松茸酒塩焼、銀杏松葉さしを盛り合わせた、伊賀釉鎬四方鉢。右・季の花をいけて。


そして、作品とともにさまざまなエピソードや物語も受け継がれ、料理やおもてなし、空間に漂う趣といった言葉では言い表せない八勝館らしさを形づくっています。

右・魯山人作品でしつらえた、築400年ほどの古民家を昭和初期に滋賀県から移築した「田舎家」。左・箔絵瓢簞図高膳、志野菊摘蓋向付など。多彩な所蔵作品の一部を普段はロビーに展示している。

右・魯山人作品でしつらえた、築400年ほどの古民家を昭和初期に滋賀県から移築した「田舎家」。左・箔絵瓢簞図高膳、志野菊摘蓋向付など。多彩な所蔵作品の一部を普段はロビーに展示している。

魯山人の美意識を楽しんでいただきたいと企画された「魯山人ミュージアムプラン」では、館内をミュージアムに見立てて魯山人作品を巡り、お気に入りだった「梅の間」での食事に魯山人の器2点を使用。床の掛物にも魯山人の書画が掛けられます。

北大路魯山人が好んだ「梅の間」は、明治半ばに建てられた。魯山人の「良寛詩賛手毬図」と「日日是好日」と書かれた染付扁壺が床を飾る。中国風の脚が目をひく漆絵桐文円卓や日の丸盆をはじめ、器や酒器もすべて魯山人作品。

北大路魯山人が好んだ「梅の間」は、明治半ばに建てられた。魯山人の「良寛詩賛手毬図」と「日日是好日」と書かれた染付扁壺が床を飾る。中国風の脚が目をひく漆絵桐文円卓や日の丸盆をはじめ、器や酒器もすべて魯山人作品。

地域の迎賓館、そして美意識を受け継ぐ場所──八勝館

地域の迎賓館、そして美意識を受け継ぐ場所──八勝館
魯山人作の乾山風楓葉向付が風趣な季節感を添える、三河産の赤むつ炙りと白海老のお造り。名古屋の財界人たちの倶楽部として始まった名料亭の、地元の旬を多く用いる美味は、初代主人と親交があった魯山人の料理哲学を宿す。


地元の食材を存分に生かした心に残る美味を味わいながら、料理が盛られてこそ完成する魯山人の世界観、美術館のガラスケース越しでは感じられない“使われてこそ輝く美”を体感する。本物に触れる贅沢なひとときに心満たされることでしょう。

1950年に昭和天皇のご宿泊所として建てられた、近代数寄屋建築の巨匠・堀口捨己設計の「御幸の間」。魯山人が描いた「武蔵野」と、旧蔵の古信楽檜垣文壺で秋の趣向に。

1950年に昭和天皇のご宿泊所として建てられた、近代数寄屋建築の巨匠・堀口捨己設計の「御幸の間」。魯山人が描いた「武蔵野」と、旧蔵の古信楽檜垣文壺で秋の趣向に。

八勝館

愛知県名古屋市昭和区広路町石坂29
TEL:052(831)1585
(営)12時~、18時~
完全予約制水曜定休
3万円~(平日の昼のみ2万5000円~)「魯山人ミュージアムプラン」1名6万円(サービス料込み)。2〜6名(15歳以上)で要予約、1日昼夜各1組限定。

(次回へ続く。)

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この記事の掲載号

『家庭画報』2026年10月号

家庭画報 2026年10月号

撮影/合田昌弘 取材・文/鈴木博美

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