〔特集〕富山・北九州・宮城 ── 世界が憧れる 新しい “鮨の聖地” へ 「鮨のメジャーリーグ」といえば、東京・銀座。ですが、ここのところ美食家の間では、日本各地をホッピングし、職人渾身の鮨を味わい、その土地ならではの風土や物語に触れるという旅への関心が一気に高まっています。地元の旬魚と、それを生かす職人の技、そして地域の未来を見据えたチームの取り組み──。「鮨」を通して、日本の食文化の現在と未来をたどる、豊かな旅へとご案内します。
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[富山&北九州]
日本全国「すしのゴールデンルート」を目指して
富山&北九州地域が育てる新しい「鮨旅」
──柏原光太郎(ガストロノミープロデューサー)

富山県で「寿司といえば、富山」プロジェクトが始まったのは2023年6月。「寿司といえば」富山県と連想する人の割合を今後10年間で90パーセントにする目標を掲げたのである。
豊富な魚種が生息し、陸からすぐに深くなるため漁場が近く新鮮な魚がとれる富山湾、立山連峰のおいしい水が生み出す米と酒など、富山県は鮨の要素に恵まれている。だからこそ富山の鮨の魅力をもっと知って、実際に訪れてほしいというキャンペーンを始めたわけだ。
実際、地酒と酒肴、にぎりを楽しんでも1万円しない町ずしの名店が富山にはそこかしこにある。しかもここ数年、特集で取り上げた「
成希」や「
柳緑」に代表される、技は一流、価格は良心的な店も増えている。さらに東京でもトップクラスの「鮨しゅんじ」は鮨オーベルジュを作り、将来は夫婦で移住予定。職人養成学校「北陸すしアカデミー」も開校し、将来への布石も抜かりない。
一方、北九州市は2025年4月、日本で初めて「すしの都課」を新設し、鮨を中心に「すしの都 北九州市」のブランディングを進めている。
オール北九州の食材でゲストを迎える「照寿司 セカンドエディション」。
北九州市は「響灘」「関門海峡」「豊前海」という3つの特徴の異なる海に囲まれ、四季折々の豊富な魚を楽しむことができる。中央卸売市場は海に面して繁華街から近いため、九州や瀬戸内海の鮮度抜群な魚がすぐに水揚げされ、最新の処理を施され、鮨店に届けられる。
鮨店では、北九州市民自慢の白身を柑橘類や塩で食べる「小倉前」と呼ばれる独自の鮨文化も発展。どうしたらうまい鮨が食べられるかの研究に余念がない。「天寿し」「二鶴」「照寿司」という超一流店から、気が向いたらふらっと訪れて刺し身をつまんでにぎりを楽しめる町ずし、旬にこだわる回転ずしまで多彩な約200店が互いに技術を磨いて「おいしいすし」を生み出しているのだ。
北九州市のシンボル、小倉城。
その富山県と北九州市が昨年夏、JR西日本を加えた3者で連携協定を締結。両地域を結ぶ「すしのゴールデンルート」を形成して観光客を誘致する方針を決めた。すでに両首長が互いを訪れ、鮨文化をアピール、ゴールデンルート沿いの自治体が集まって「すしサミット」を開催するという動きもある。北九州市の名店「照寿司」がこの秋に富山店を開くという偶然も連携推進に輪をかけている。
ゴールデンルート構想には早くも広島県や下関市などが前向きだと聞く。地方の鮨を楽しむ「鮨旅」はますます活発になることだろう。
柏原光太郎(かしわばら・こうたろう)文藝春秋を経て、現在はKassie&Co. 株式会社代表取締役。北九州市参与(食の魅力戦略担当)、食の熱中小学校校長、日本ガストロノミー協会会長などを務める。最新刊は『世界の富裕層は日本で何を食べているのか?―ガストロノミーツーリズム最前線』。