家庭画報2026年9月号の特集「新しい“鮨の聖地へ”」連動企画。日本各地の鮨の魅力を、外国人美食家の皆様に教えていただきます。第1回はニューヨークで「鮨 吉乃」などを経営する、アンドリュー・ギョクダリさんにお話を伺いました。
●アンドリュー・ギョクダリさん 米・シカゴ生まれ。学生時代には著名な鮨店で4 年間勤務。2015 年に株式会社ギョクダリを設立し、飲食事業への投資・支援を展開。世界のレストランガイド「OAD レビュアーランキング」世界3 位に4 年連続選出。ニューヨークで「鮨 吉乃」や国内で複数の飲食店を経営。
お鮨を食べるためだけの旅をしますか? その魅力とともに教えてください。
九州、愛媛、北陸、三陸などには、鮨を食べるためだけに足を運ぶことも少なくありません。どの地域にも素晴らしい魚がありますが、その魚をいかに最高の状態で料理人へ届けるかを、漁師や仲卸、料理人が日々試行錯誤しながら磨き上げています。こうした生産者から料理人までの一体感こそが、地方鮨の最大の魅力だと思っています。
地方で今活躍している新世代の鮨職人の多くは、東京で修業した後に地元へ戻り、実家の鮨店を継いだり、自ら店を構えたりしています。しかし、常に多種多様な魚が揃う豊洲市場とは異なり、地魚を主体に仕入れる店では時化になると魚の流通が一気に限られます。そんな環境だからこそ、料理人の工夫や引き出しの多さが日々試されます。東京では出合えない一かんに巡り合うたび、胸が躍ります。
お鮨を食べに足を運ぶべき地域とお鮨屋さんは?
①愛媛県今治
「美味い魚を食べるなら今治」といわれるほど、愛媛は全国屈指の水産県として知られています。その理由は、日本有数の来島海峡という漁場の環境にあります。来島海峡は鳴門海峡、関門海峡と並ぶ「日本三大急潮」の一つです。速い潮流の中で魚は絶えず泳ぐため、筋肉が発達して身が締まり、歯ごたえがよくなります。 激しい潮流によって海底の栄養分が巻き上がり、プランクトンが豊富になります。そのプランクトンを小魚が食べ、小魚を大型魚が食べるという豊かな食物連鎖ができています。 今治周辺は島が多く、岩礁や起伏に富んだ海底地形です。真鯛、はも、たこ、あこう、カサゴなど多くの魚介類が生息しやすい環境になっています。
また、今治では昔から急潮流を利用した一本釣り漁が盛んです。網漁より魚が傷みにくく、鮮度の高い状態で水揚げされるため、全国の一流鮨店から高く評価されています。
今治には藤本純一さんという、日本で最も評価の高い漁師の一人がいます。魚を最高の状態に仕立てることで知られ、魚種や個体ごとに活け越しや血抜き、神経締めを使い分け、届ける料理人の調理法まで考慮して処理を施します。現在は全国約300軒のトップレストランや鮨店と直接取引しており、今治を代表する鮨店の多くが藤本さんの魚を使用しています。2021年には『ゴ・エ・ミヨ2021』のテロワール賞を受賞し、生産者として全国的な評価を受けています。
特におすすめしたい愛媛県の鮨店を3軒ご紹介します。
「馳走屋河の」前半は日本料理、後半は「握り」か「炊き込みご飯2種」を選択できますが、真価は握りにあります。愛媛の魚に対する強いこだわりを持っており、瀬戸内海や宇和海の魚介を中心にその日に最も状態のよい鮮魚を仕入れます。店主の河野さんは「魚を熟成させず、鮮度そのものの味を楽しんでもらう」という考えを持っており、素材本来のうまみを大切にしています。「噛むほどうまみが広がる鮨」を目指しており、ねたとシャリが口の中で一体となり、味が完成するよう設計されています。朝獲れの魚を中心に、鮮度を生かした握りが特徴です。シャリを大きなねたで包むような独特のフォルム。見た目も美しく、ねたとシャリの一体感を重視した握り方になっています。
●「馳走屋河の」
住所:愛媛県松山市二番町2-8-6グリーングラスビル2階
TEL:089(931)7322
営業時間:12時~14時30分(月曜・火曜)、18時~22時
定休日:不定休
予算:お昼のおまかせ1万9800円、おまかせコース3万3000円 要予約

「くるますし」店主の高平康司さんは「銀座 鮨青木」や「鮨よしたけ」で修業し、その技術を愛媛に持ち帰っています。単なる地魚の鮨ではなく、江戸前の仕事を愛媛の魚に施すのが特徴です。昆布じめ、酢じめ、熟成などを魚ごとに使い分けます。「鮮度がいいからそのまま出す」のではなく、最もおいしい状態まで仕上げ、包丁やしめ、熟成の加減まで非常に繊細で、江戸前の技術を丁寧に積み重ねた仕事が魅力です。
●くるますし
住所:愛媛県松山市一番町1-6-9
TEL:089(932)3689
営業時間:17時~、19時30分~の2部制
定休日:水曜日・不定休
予算:おまかせ2万7500円 要予約

「鮨いの」店主の猪野祐介さんは「愛媛でしかできない握りを追求する」という考えを掲げています。 地魚に徹底して向き合っており、藤本純一さんを中心に仕入れる愛媛の魚の力強さを全面的に出す握りは強い存在感を発揮します。
●鮨いの
住所:愛媛県松山市二番町1-10-9 MITSUWA320 3階
TEL:089(948)9986
営業時間:12時~(ランチ)、18時~、20時30分~(ディナー)の2部制
定休日:不定休
予算:ランチ8800円~、ディナー1万3200円~ 要予約


②博多
九州は暖流と寒流が交わり、玄界灘・東シナ海・豊後水道・有明海など多様な漁場を持つため、全国でも屈指の鮨ねたの宝庫であり、その多くは博多の福岡市中央卸売市場鮮魚市場(長浜鮮魚市場)に集まります。白身魚では白甘鯛、クエ、ノドグロ、イサキ、オコゼ、ヒラスズキ、真鯛、青魚ではあじ、さば、コハダ、そのほかでは赤うに、あわび、いかなどが全国的にも有名であり、東京の名店の多くも、福岡からこれらの魚介を取り寄せています。
今、私が注目しているのは、東京などで修業を積み、福岡へ戻ってきた新世代の鮨職人たち。その2軒ご紹介します。
「枯淡」店主の野口和暉氏はミシュランガイド東京で3つ星を獲得したことのある「鮨 水谷」、1つ星に輝いた「鮨 はしもと」で修業した後に、橋本裕幸さんからの暖簾分けで「鮨 美幸」の大将を経て、2021年11月に博多で開店。オープンするまでの1年間は全国屈指の鮮魚仲卸である福栄水産で働き、九州の魚の理解をさらに深めました。
●枯淡
住所:福岡市中央区桜坂1-5-15
TEL:092(600)9478
営業時間:17時30分~、ランチは不定期
定休日:火曜・水曜
予算:おまかせコース2万9700円 要予約
「船越」金沢の名日本料理屋「片折」や福岡の人気店「菊鮨」で修業された船越久生さんは、まぐろ以外のねたはすべて地元の「福栄水産」で揃えています。
●船越
住所:福岡市南区野間4-11-27
TEL:092(541)3533
営業時間:12時~15時(水曜・金曜・土曜)、18時~22時
定休日:日曜
予算:おまかせコース2万2000円 要予約


