〔特集〕エレガントな美食を究めて50年 「中国飯店」が愛される理由 日中国交正常化から間もない1975年、東京・六本木にひっそりと誕生した「中国飯店」。20代で上海から来日し、たゆまぬ努力で50年の歴史を紡いできたのが創業者・中条富造さん。今や国内に11店舗を擁する中国料理レストランの一大グループへと成長し、熱烈なファンは政財界、文壇、芸能、スポーツ各界にも広がっています。長く、深く愛され続ける秘密を、中条さんへのインタビューと、親交の深い方々のお話から紐解きます。
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[特別対談]阿川佐和子さん 檀 ふみさん
至福の時間は「中国飯店」とともに
檀さん・ドレス、ベルト/ともにマリナ リナルディ(マックスマーラ ジャパン) イヤリング/シンティランテ Piramide(イセタンサローネ 東京ミッドタウン)
阿川さん・ブラウス/ニコレッタ(チェルキ) スカート/レストレーゲ(チェルキ) ネックレス/シンティランテ Polvere distelle(イセタンサローネ 東京ミッドタウン) ピアス/ダニエラ・デ・マルキ(アッシュ・ペー・フランス)
檀ふみさん(以下、檀) 私たち二人が会うときって、「中国飯店」の中条さんがかかわっていることも多いわね。ご一家のファミリーコンサートだったり、プロの演奏家を招いたチャリティコンサートや、店舗のオープニングイベントだったり。催事があると即、招集がかかって二人で司会を務めるという。
阿川佐和子さん(以下、阿川) 食事に何度も寄らせてもらっていますけど、イベント係も回を重ねてきましたね(笑)。
阿川佐和子さん(あがわ・さわこ)
作家、エッセイスト。大学卒業後、テレビ番組でのリポーターを機に、報道番組のキャスターや司会を務める。映画やドラマに出演するなど俳優としても活躍。最新刊は『阿川佐和子のきものチンプンカンプン』(世界文化社刊)。
檀 佐和子ちゃんはお父様(阿川弘之氏)が中国飯店の大ファンだったでしょ。やはり、最初はお父様に連れて来られて?
檀ふみさん(だん・ふみ)
俳優。高校在学中に俳優としてデビューし、知的な美しさで映画、テレビドラマで幅広く活躍。『N 響アワー』『新日曜美術館』などの司会やナレーションでも高く評価されている。著書多数。
阿川 記憶を辿ると、1回目は学生時代の友達かな。六本木店ができて数年たった頃ね。確かに、父は中国料理が大好きで、外食というと中華屋さん。私が幼稚園の頃の誕生日プレゼントも、「中華を食べに連れて行ってやるぞ」(笑)。いろいろな店に行きましたけど、後半生はもっぱら中国飯店だったわ。ふみさんは、お芝居関係……たしか、高倉 健さんに連れて来られたのが最初だったとか?
檀 きっかけはそう。内モンゴルの映画祭でご一緒した後、打ち上げをしたのが中国飯店だったの。健さんは「こんなに一生懸命働いている若者を見たことがない」って、若い頃から中条さん夫妻をすごくかわいがって応援し、東京での会食というと必ず中国飯店だったわね。その縁で私も中条さんとお近づきになり、今やファミリーの一員っていうのかしら、慶事があると必ず呼ばれて……。
阿川 すっかり座付き司会者(笑)。それぞれ、40年近いおつきあいよね。中国料理の中では、一番通い続けている店かも。
檀 そういう定めだったのかしら(笑)。私は叔父が東映社長を務めていたこともあって、映画関係者の方々とも本当によく来て、おいしいものをたくさんいただいたわ。
阿川 私たち、司会を仰せつかるようになって、中条さんとの関係がぐっと密になった感じがするわね。中条さんは上海時代にバイオリンを学ぶ音楽青年で、二人のお嬢さんにはピアノとバイオリン、息子さんにはチェロを習わせ、奥様もフルートを始められた。1回目のコンサート時に小学3年生だった息子さんが、今やプロのチェリストとして活躍していらっしゃる。
檀 2回目のコンサートは会場にしたサントリー小ホールがお店の顧客で埋め尽くされて、しかも錚々たる顔ぶれだったわね。中条さんのお人柄もあって、応援せずにはいられなくなる(笑)。
阿川 お客様にしても、スタッフにしても、周りをとても大事にするのが中条さんの素晴らしいところね。「富麗華」を始めるときも中国各地から料理人さんなどスタッフをたくさん呼び寄せたんだけど、お給金は手厚く、住まいにもお金を惜しまずきちんと整えていらした。
檀 スタッフもお客様も、皆家族という思いがあるのね。
阿川 お客様に対するホスピタリティは尋常じゃないですね。いくつも店舗をお持ちなのに、よく知るお客様がいらっしゃるとわかると、すっ飛んでいって挨拶する。だからお忍びでこっそりと、というわけにはいかないのよ(笑)。本当にいくら親しくなっても、腰は低いままというのが皆さんに愛されるところではないかしら。
檀 私は富麗華を利用することが多いんだけど、来るたびに調度品やインテリアに何かしら手が入っているところにも感心するの。素敵な古美術品、工芸品もどんどん増えている。舌だけでなく目も楽しませてくれる場所なのね。それと、お手洗いが素晴らしい。おむつ替えの台まで設置していて、個室には赤ちゃんも気兼ねなく連れて来られるのはうれしい心遣い。
阿川 私は六本木店と富麗華のどちらにも行くんだけど、店舗によって微妙に料理の構成が違うのよ。六本木店には中国粥があって、胃が疲れているときはうれしいわ。優しい味が体に染み入って。富麗華はおいしい炒飯と点心が豊富。
檀 まあ、2つの店を使い分けるとはさすがだわね。私が気に入っているのは、すごく贅沢なんだけど、秋がシーズンの「上海蟹ラーメン」。蟹みそがたっぷり詰まっていてうまみがいっぱい。忘れられないおいしさだわ。炒飯だと真っ黒い色をした「松の実とたまり醬油の炒飯」。あとは「アボカド入りのフカヒレスープ」も感動したなあ。材料の組み合わせがすごく合うなと。
阿川 炒飯だけで10種類もあって、品揃えがこんなにおもしろい店はそうそうないわよ。私は「花穂紫蘇とほたて貝の卵白炒飯」が好き。あと、季節メニューだけど、においの強い干し鱈系の炒飯も。「アボカドとピータンとトマトの冷菜」もちょっとした冷菜だけど、お気に入りなの。
檀 おまかせのコースをいただくことも多いけど、その日の胃袋の具合で、アラカルトで麺や炒飯を少しだけ楽しめるっていうのもありがたいのよ。
阿川 「これ、新作です。試してください」といって新しい料理を出してくださることも多くてね、本当に研究熱心。
檀 そうね、スタンダードな料理でも、マイナーチェンジされていたり。改めて献立を見ると、食べていないものがこんなにも多かったんだとびっくりだわ。三十数年も通っているけど、もっともっと来なくてはね。
レジェンド・メニュー(3) 「名物壺入りフカヒレの醬油煮込み」形が崩れると無駄の出やすいフカヒレを、あえて少しだけ形を崩して姿煮に近いボリュームと美しさに仕上げたフカヒレ煮込み。小さな壺に盛り込んだ不揃いのフカヒレは何層にも重なって存在感があり、しかも一口ずつの大きさで食べやすく味がよくしみ込んでいるという特徴も。広東料理では透明な濃厚スープの上湯(シャンタン)で煮込むが、上海では醬油味が基本。独創的なアイディアが光る大好評の一皿。
レジェンド・メニュー(4) 「上海蟹の蒸し物(清蒸)」中国では秋の風物詩でもある上海蟹。日本に初めて輸入したのは貿易業を営んでいた中条さんの父親で、「中国飯店」では当初からメニューに。とろとろのみそが詰まった最高級ブランド陽澄湖産を丸ごと蒸す。専門の厨師が身をほぐして供するスタイルも中国飯店から広まった。檀ふみさんお気に入りの上海蟹ラーメンなどの料理も。写真/佐伯義勝
レジェンド・メニュー(5) 「才巻海老の湯葉巻き揚げ」天ぷら好きの日本人の好みを取り入れたという創業当時からの人気メニュー。上海料理でよく使われる海老と、中国全土でさまざまな調理法で食べられる豆腐からのイメージで、才巻海老に生湯葉を巻いて天ぷら風にカリッと揚げて。「殻をむいただけでは素っ気ない姿の海老も、湯葉を巻くことで美しさを出せました」(石嵐料理長)。
レジェンド・メニュー(6)
「松の実とたまり醬油の炒飯」(手前)、「花穂紫蘇とほたて貝の卵白炒飯」(奥)「黒炒飯」とも称される見た目のインパクトとともに、中国のたまり醬油の馥郁とした香り、牛ひき肉のうまみ、松の実の香ばしさと食感が一体となった名物「松の実とたまり醬油の炒飯」。一方で「花穂紫蘇とほたて貝の卵白炒飯」はフレッシュな帆立貝と薬味の繊細な香りが後を引く味。人気が高く、期間限定メニューからグランドメニューに昇格した品。
(次回に続く。
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