鮨を通じて土地の文化にも出合う

柏原 地方鮨に対して大谷さんが期待する江戸前の技は、例えばどんな技でしょうか?
大谷 光り物をしめる技術や、あなごやはまぐりを煮含める仕事ですね。生で食べられる魚もひと手間加えることで、さらにおいしくなりますから。
柏原 酢飯についてはどうですか?
大谷 僕は温度と粘度が重要だと思っています。冷たくて粘度が高い酢飯は前時代的で、口の中でほろっとほどけることが理想ですね。地方鮨は、職人の技と土地の文化が交わることで生まれる特徴が魅力であり、酢飯も地方ごとに個性があるので、そこが表現されているほうがおもしろいと思います。
柏原 例えば関西の酢飯は甘めですが、それは地方の特色として楽しもうということですね。北陸の酢飯は東京より優しい味ですし、九州の醬油は甘い。そうした地域ごとの違いを受け入れることで、旅先で味わう鮨の魅力がいっそう深まるのではないでしょうか。
大谷 そうですね。その土地の嗜好で味つけした酢飯で地魚を楽しむことこそ、地方鮨の醍醐味だと思います。
柏原 確かに。それから、地方でお鮨屋さんを訪れる際に覚えておきたいのは、観光客は地魚を楽しみたいと思う一方で、地元の人々は必ずしもそれを求めていないことです。そのため“特上”を頼むと、地魚だけでなくうにやイクラなど、ほかの地方の高級食材が出てくる場合もあります。初めてのお店では、「旅行で来たので地魚を味わいたい」と伝えたほうが地域の味を楽しめるでしょう。
大谷 それは間違いないですね。僕も旅先のお鮨屋さんでメニューがいくつかある場合は、違いを聞いて地魚が食べられるほうを頼むようにしています。
柏原 お店はどんなふうに探していらっしゃるんですか?
旅先で自分好みの鮨を見つけるために

大谷 僕はウェブ媒体などの投稿写真を見て判別しています。魚の切りつけや、にぎりの形、米のハリなどをじっくり見ていますね。
柏原 写真を見れば大体わかりますか?
大谷 はい。いろいろな店で食べたり、自分でにぎったりしていると、見た目でわかることが増えてきます。薬味の切りつけや食材の取り合わせにも職人さんのセンスが出るので、細部を見て総合的に判断しています。あと、本わさびを使っているかどうかも重要です。柏原さんはいかがですか?
柏原 同業他社の人や飲食関係の人に「どこがいいですか?」と聞くことが多いですね。漁師さんや港関係の人はやはり詳しいですし、接待で利用する人たちもよく見ていらっしゃいます。あと、町役場や市役所の観光関係の人は公平な立場ですが、踏み込んで聞くと「そこは数年前に代替わりしたから今はこうです」というようなことを教えてくれます。
大谷 地元で定点観測しているからこそわかる情報は貴重ですね。僕も地元の方の生の情報を聞いてみようと思います。

(次回に続く。
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