レシピ

野菜の旨みにほっとする汁もの。最後に数滴加える米油がおいしさのポイントです

プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。一覧はこちら>>

沢煮椀(さわにわん)

沢煮椀(さわにわん)

沢煮椀をご存じでしょうか? 料理屋では春〜初夏にかけて出すことが多い、野菜をふんだんに使った汁ものです。本来は野菜だけで作るものですが、飲食店口コミサイトなどの影響やお客さまの意識の変化もあってか、プロの料理も商品としてのコストパフォーマンスが取り沙汰されるようになり、どんなにおいしくても高価な食材が使われていないと納得しない方が増えました。そのため、鮑や大栄螺(さざえ)などの高級食材を加えた沢煮椀は出せても、本来の野菜だけの沢煮椀を出すことが難しくなりました。野菜料理としても大変優れた後世に残すべきおいしい汁ものです。料理屋が出せないのなら家庭で作り、伝承しましょう。

豚の背脂を細く切り塩でもんで湯通しし、せん切りにした多くの野菜(にんじん、うど、三つ葉など)とさっと炊いて味つけします。沢煮椀の「沢」は「沢山(たくさん)の」という意味で、「いっぱいの具」ということになります。他にも薄い味つけ、せん切りの具が沢の水の流れに見えるという意味も。

沢煮椀の由来は、猟師が山に入る際に日持ちする背脂の塩漬けを持っていき、山の中で山菜などと一緒に具だくさんの汁を作ったのが始まりとされます。南蛮渡来とする説もあり、塩漬け豚を使ったスープやポトフなども確かに近い料理ですね。ウクライナ料理はボルシチが有名ですが、サーロという豚の脂身の塩漬けもあり、様々に活用され、南蛮渡来説もうなずけます。

鯨漁が盛んだった頃は、日本でも鯨の脂身を使った料理が多くありました。豚の背脂と同様に栄養価が高く、水菜と一緒に炊いたりしました(「壬生菜(みぶな)鍋、壬生菜と春菊の高菜粒辛子和え」)。現在、豚の背脂といえばラーメンが思い浮かび、ギトギトというイメージですが、この連載で毎回確認している野菜料理をおいしくする7要素の一つ、油分は上手に使えば他の食材をおいしくし、こくを出します。

沢煮椀は吸い口にこしょうを使うのが定番ですが、かつては脂くささを消すために用いたのだと思われます。日本料理でこしょうとは珍しいようですが、沢煮椀以外にも蛤(はまぐり)椀、船場(せんば)汁などでも使われます。

こしょうはインド原産で、中国を経由して奈良時代に日本に伝わり、最初は薬として用いられましたが、後に調味料としても利用されるようになりました。江戸時代には、唐辛子が伝わるまでは薬味としてうどんに用い、こしょう飯という料理もあり、かなりの量が中国やオランダを通して輸入されていたようです。

魚介の入った汁ものは豪華で確かにおいしいのですが、暑くなると重たく感じることもあります。冷たい料理が多くなりがちな夏は体が冷えて、熱い汁ものが飲みたくなるのも事実です。そんなときに沢煮椀はいかがでしょう。中身はあつあつにし、見た目は涼やかに絵替わりの帆船蒔絵の椀を選んでみました。

「金毘羅船々(こんぴらふねふね)追風(おいて)に帆かけてシュラシュシュシュ」(民謡『金比羅船々』)、シュラシュシュシュとは風を受け船が波の上をおだやかに進む様子だそうです。沢煮椀はあり合わせの野菜で手早くシュラシュシュシュと料理できます。今晩ぜひ。今日も野菜料理を楽しみましょう。

ちょっとしたコツ

・「沢煮椀」は、野菜料理をおいしくする7要素中6要素を取り入れている。

◎旨み ◎塩分 甘み ◎油分 ◎食感 ◎香り ◎刺激

具材は細くそろえて切り、さっと炊く。炊き過ぎると食感が悪くなり、具材の味が同化してしまう。

具材を吸い地でさっと炊いた後、椀に盛り、別の吸い地を注ぐ。野菜を炊いた吸い地は野菜の風味は出ているが、沸かしているため、吸い地にキレがなくなっている。

・野菜を炊いた吸い地をそのまま使ってもよいが、その場合は野菜から出る水分で味が薄くなった分の調味料をたす。

・野菜料理なので、豚の背脂の代わりに、クセのない油(米油など)を仕上げに数滴加える。好みでオリーブ油や山椒油(「初夏の箸休め 冬瓜の酢のもの、デラウェアのおろし和え」参照)を使ってもよい。山椒油を使う場合は、こしょうはふらない。


「沢煮椀」

沢煮椀(さわにわん)

【材料(2人分)】
・新ごぼう 15g

・にんじん 15g

・水菜 10g

・三つ葉 10g

・しいたけ 1枚

・白こんにゃく(黒こんにゃくでもよい) 10g

・うど(好みで) 15g

・金糸瓜(好みで) 10g

・おかひじき(好みで) 10g

・吸い地
出汁540cc、塩1g、薄口醤油10cc、日本酒10cc

・米油 少々

・こしょう 少々

【作り方】
1.新ごぼうとにんじんは櫛刃を付けたスライサーでなるべく細い3cm長さのせん切りにする。水菜と三つ葉は3cm長さに切る。

2.しいたけは軸を外して薄切りにする。白こんにゃくは3mm角×3cm長さに切って下茹でし、水に放して水気をきる。

3.うどは茎の部分を使う。皮をむいて2mm角×3cm長さに切る。金糸瓜は「金糸瓜のそうめん、ごま辛子酢味噌和え」を参照して茹で、3cm長さに切る。おかひじきは、太い茎から枝分かれした柔らかい茎と芽の部分を使う。太い茎が柔らかい場合はそのまま用いてもよい。「おかひじきのひたし、豆腐の味噌漬け和え、梅酢和え」も参照。

4.吸い地を作る。鍋に出汁を注ぎ火にかけ、90℃くらいになったら塩を加えて溶かし、沸く直前に火を弱め薄口醤油と日本酒を加える。

5.吸い地260cc分を別の鍋に移し、ごぼう、にんじん、しいたけ、白こんにゃく、うど、金糸瓜、おかひじきを入れて火にかけ、沸いたらざるに上げる。具材を椀に盛り、取り分けておいた吸い地を温めて注ぎ、米油を数滴加える。こしょうをかけて供する。

私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。

六雁(むつかり)

榎園豊治さんプロフィール
銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。

六雁 むつかり

東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:http://www.mutsukari.com

六雁 むつかり 料理長、秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。

文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗

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