レシピ

熱湯でもどして、ゆっくり炊き上げる。豆の味が生きた、黒豆の蜜煮をご自宅で

プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”365 身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を毎日教わります。一覧はこちら>>

黒豆の蜜煮

黒豆は正式には黒大豆と言い、黄大豆、青大豆、赤大豆など多くの大豆の品種の1つです。その枝豆については「紫ずきん3種」で既に紹介しました。表皮にアントシアニン系の色素を含むため黒くなります。ぶどう豆とも呼び、日本では古くから栽培され江戸時代後期にはその煮豆をおせち料理として食べることが一般に広がったといいます。

私たちプロの料理人は粒の大きい丹波産を用います。丹波地域は山間にあって昼夜の寒暖差が大きく、その風土と肥えた土壌により大粒に育ち、良質で濃厚な味の黒豆になります。丹波産黒豆を舌と上あごの間に挟んでつぶれるくらいに柔らかくもどし、鉄鍋や硫酸鉄などを使って真っ黒に仕上げます。鉄を使うため、鉄分や鉄臭さを抜く工程が必要になり、豆を水にさらす人もいます。その後、蜜煮するのですが、割れを防ぐために炊かずに蜜漬けするだけという方法もあります。このようにいくつもの工程と時間と手間をかけてプロが炊いた黒豆は皮が切れずしわも寄らず、また、黒光りして柔らかく蜜も透明です。

ところが、そんなプロの黒豆に対して「綺麗で柔らかいけど甘いだけで豆の味がしない」という評価が多くあるのも事実です。食べ手の立場に立てば、私もそのとおりだと思います。10時間以上柔らかく炊きもどす過程で、黒豆の味と香りが溶け出た茹で汁はすべて捨て、その上に水にさらしているのですから豆の風味はなくなって当然なのです。

しかし、プロにとっては従来どおりに黒豆が“美しく上手に”炊けることが重要で、そこに誇りを持っているので、おいしさ重視の黒豆に変えることには抵抗があるのです。ですから、食べておいしい黒豆は家庭で炊くしかありません。

黒豆の蜜煮

黒豆の風味がするおいしい黒豆を炊くのに最も大切なのは豆選びです。なるべく新しい豆を購入します。黒豆は7月に種を植え9月~10月に莢に実をつけ、中生種は10月上旬〜11月上旬、晩生種は11月中旬〜12月上旬に収穫し乾燥させます。新物というラベルが貼られた黒豆であっても実際は前年に採れたものを冷蔵保存したものがほとんどです。その年の新物も産地から直接であれば手に入りますが、まだ皮が柔らかいので非常に割れやすく家庭で炊くのには向いていないかもしれません。昨年の“新物”を買ってください。それより前に収穫されたものは炊いても割れにくいのですが、あくが強いので茹でもどす際に茹で汁に黒豆の風味だけでなくあくも多く出てしまい、風味が出た汁をすべて入れ替えなければならなくなります。

茹でもどす際に2〜3割の豆が割れるのは普通です。失敗ではありません。真っ黒にはならなくても葡萄色のぶどう豆になります。何よりおいしさではプロに負けない風味豊かな煮豆になります。今年は家庭で黒豆を炊いて野菜料理を楽しみませんか。

ちょっとしたコツ

・「黒豆の蜜煮」は、野菜料理をおいしくする7要素中5要素を取り入れている。

◎旨み ◎塩分 ◎甘み 油分 ◎食感 ◎香り 刺激

・新豆は柔らかくあくが少ないが割れやすい。ひね豆(2年以上前の古い豆)は割れにくく、色も黒くなりやすいが、あくが強い。味重視なら傷の少ない新豆を選ぶ

・最初に豆を洗うとき、かき混ぜたりこすったりすると皮が破れる原因になるので、水を通して表面のほこりを除く程度でよい。

・従来の方法では茹でもどす前に10~11時間水につける。豆の質や外気温にもよるが、明るいところで長くつけ過ぎると芽が出て皮が破れることもある

・水に1晩つける従来の方法でもよいが、最初に熱湯につける「熱湯もどし」のほうが豆が割れる確率は低い。

・豆の味と香りが残るように5〜6時間程度茹でもどすくらいでよい。

・豆が柔らかくなったら、蜜煮をはじめる前にもどし汁の味をみる。もどし汁の中には豆の風味が出ているのでなるべく捨てないほうがよいが、えぐみを強く感じるようであれば半分捨てて水をたすなどして蜜煮に移る。

・蜜煮にする際は豆にしわが寄らないように砂糖を何度かに分けて加える。さらにしわが寄らない工夫として、鍋の中の蜜の表面にオーブンペーパーを全面に広げて紙蓋をして、豆が空気と接触しないようにして炊く。

・蜜に日本酒を加えることでこくが出る。アルコールは豆を堅くするのでアルコールを煮きっておく。

・甘みが丁度よくなったら、仕上がる直前に濃口醤油を少々加えて味をしめる。


「黒豆の蜜煮」

【材料(作りやすい分量)】
・黒豆 250g

・黒豆のもどし汁+水 600cc

・日本酒(アルコールを軽く煮きっておく) 300cc

・砂糖 300g

・濃口醤油 大さじ1弱

【作り方】
1.ボウルにたっぷりの水をためて、黒豆を静かに入れ表面のほこりを浮かせて除き、すぐにざるに上げて水をきる。

2.熱湯もどしをする。黒豆を鍋など蓋ができるものに移し、沸かした湯1Lを静かに加えて豆が浮かないように表面にオーブンペーパーなどを広げ、蓋をして10時間おく。湯に重曹を少量加えると早く柔らかくなるが、入れ過ぎると皮が破れたり、もどし汁に苦みが残る場合もあるので家庭の場合は無理に入れなくてもよい。

3.10時間おいたら黒豆の入った鍋を中火にかける。沸いたら火を落としてあくをすくいながらゆっくり炊きもどす。途中、もどし汁が減ってきたら熱湯をたす。5〜6時間たったら、いったん火を止めそのまま1晩おく。冷蔵庫に入れる必要はない。

4.翌日、調理用手袋をつけて鍋の中から黒豆を両手で優しくすくいボウルに移す。その際に割れた豆を選別して別の料理に使ってもよいし、割れた豆も含めて全部を蜜煮にしてもよい。

5.鍋に残ったもどし汁を別のボウルに移してしばらく放置すると、底にでんぷんがたまる。でんぷんは不要なので上澄みだけを上手に分けて味をみる。黒豆の風味が煮汁に出ているので、蜜煮でもどし汁の上澄みをどの程度使うか判断する。例えばえぐみが弱いなら1/4〜1/3、強いようならもどし汁を半分捨てるなどする。

6.5で残したもどし汁に水をたして600ccにして鍋に注ぐ。そこに黒豆を入れて火にかける。先に黒豆を入れたところに煮汁を注ぐと豆が踊って皮が破れる可能性がある。沸いたら弱火にして30分ほど炊き、黒豆の柔らかさを確認する。2本の指で挟んで軽く押さえるとつぶれるくらい、あるいは「ひと目でわかるプロセス&テクニック」の写真にあるようにスプーンの背でそっと押すとつぶれるくらいの柔らかさを目安にすると豆の味も風味も残る。

7.程よい柔らかさになったら分量の砂糖と日本酒を5回に分けて90分ぐらいかけて加えていく。豆が空気に触れないよう煮汁の表面にオーブンペーパーをぴっちりと広げて、豆が踊らないように弱火で炊いていく。砂糖をすべて加え終わり、蜜が黒豆ぎりぎりくらいの量になったら、仕上がり直前に濃口醤油を少々加えて火を消す。

私たちプロの料理人の中には、色や見た目を味より重視する者もいます。薄味信仰?なのか、本当は少し濃いめの味にしたほうがおいしいものでも、それは恥と、濃いめの味つけを避けます。また、味を素材にしっかりと含ませることがプロの料理と、無理に味をつけなくてもおいしい素材に味をつけて台無しにしてしまうこともよくあります。何より、皆さまがおいしいと思う味にしてください。人の味の好みは様々です。ご自身・ご家族の好み、体調に合わせた味に調整しましょう。レシピに示す調味料などの分量は一例に過ぎません。注目していただきたいのは素材の組み合わせと料理手順、どんな調味料を使うのかということです。味の加減は是非お好みで。

六雁(むつかり)

榎園豊治さんプロフィール
銀座並木通りにある日本料理店「六雁」初代料理長であり、この連載の筆者でもある榎園豊治さんは、京都、大阪の料亭・割烹で修業を積み、大津大谷「月心寺」の村瀬明道尼に料理の心を学ぶ。その後、多くの日本料理店で料理長を歴任、平成16年に銀座に「六雁」を立ち上げた。野菜を中心としたコース料理に定評がある。

六雁 むつかり

東京都中央区銀座5-5-19
銀座ポニーグループビル6/7F
電話 03-5568-6266
営業時間 (昼)12時~14時 (夜)17時30分~23時 ※土曜日のみ17時~
(営業時間は変更になることもあります。事前に店舗にご確認ください)
URL:http://www.mutsukari.com

六雁 むつかり 料理長、秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。連載でご紹介する料理を手がけてくださる、現料理長・秋山能久(あきやま・よしひさ)さん。

文/榎園豊治 撮影/大見謝星斗

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