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京都・三条大橋から車で約10分。東山山頂で楽しむ花見と絶景大パノラマ

随筆家 大村しげの記憶を辿って 私だけの京都へ 第34回「将軍塚」

京都・三条大橋からクルマで約10分。東山山頂で楽しむ花見と絶景大パノラマ

随筆家 大村しげの記憶を辿って かつて、京都の「おばんざい」を全国に広めたお一人、随筆家の大村しげさんをご存じでしょうか。彼女が書き残した足跡を訪ねて、生粋の京女が認めた京都の名店や名所を紹介します。記事一覧はこちら>>

京都を旅するにあたり、京都ならではの場所や味に出会うために、私たちはなにを拠り所とすればよいのでしょうか。京都の情報を多数書き残した、随筆家・大村しげさんの記憶は、まさに京都を深く知るための確かな道しるべ。今回も彼女にまつわる名所を辿ります。

大村しげ大村しげ
1918年、京都の仕出し屋の娘として生まれる。1950年前後から文筆をはじめ、1964年に秋山十三子さん、平山千鶴さんとともに朝日新聞京都版にて京都の家庭料理や歳時記を紹介する連載「おばんざい」を開始。これをきっかけに、おばんざいが知れ渡り、大村しげさんも広く知られるようになる。以来、雑誌や著書で料理、歴史、工芸など、幅広く京都の文化について、独特の京ことばで書き残した。1990年代に車いす生活となったのを機にバリ島へ移住。1999年、バリ島で逝去。 撮影/土村清治

寝姿に例えられる東山の山並み

京都の東側に連なる美しい山々は、東山三十六峰と呼ばれます。京都観光の際、意識せずとも多くの人が東山一帯を目にしているはずです。その形状から人の寝姿に例えられると大村しげさんは著書『静かな京』(講談社)で述べています。今回は彼女が書き残した東山山頂の桜の名所を紹介しましょう。

「東山三十六峰というのは、北は比叡山から、南は稲荷山までの、びょうぶのような峰々をいう。(中略)そして『ふとん着て寝たる姿や東山』というのは、わたしには、四条通の突当り、八坂神社の朱の楼門のうしろにこんもりと高い将軍塚が、肩のあたりのように思える」(『静かな京』)

将軍塚は東山の山頂にある京都を一望できる名所。和気清麻呂に伴われ、狩りに出かけた桓武天皇がこの地を訪れ、都を京都に移すことを決めたといわれています。「鳴くよ(794年)ウグイス平安京」の年号暗記の語呂合わせで有名な平安京遷都のきっかけは将軍塚にあったのです。将軍塚の名は都の安泰を祈るため、将軍の像に甲冑を着せて弓矢、刀を添えて埋めたことに由来します。

京都・三条大橋からクルマで約10分。東山山頂で楽しむ花見と絶景大パノラマ

こんもりと丸く盛り土されているのが将軍塚。中心に石碑が建っています。塚のある敷地を擁する青蓮院門跡の門主・東伏見慈晃さんによると、塚の形状は朝鮮の王族の墓を模しているとのこと。

そんな将軍塚は、大村しげさんの著書に何度も登場します。
「わたしがお花見に出かけるすい場がある。すい場とは自分一人で隠している場所で、それがあんまり美しいので、人にも自慢をして教え、ものにも書いて、もうすい場ではのうなって(なくなって)しもうた」

「将軍塚は、わたしのこどものころの遊び場で、その時分は、お山の広場に塚があるだけやった。その塚にみんなで上がっては“お山の大将ぼく一人”と大声を上げていた」(ともに『ほっこり京ぐらし』淡交社)

京都・三条大橋からクルマで約10分。東山山頂で楽しむ花見と絶景大パノラマ

現在、将軍塚のある場所は将軍塚青龍殿として敷地が整備されています。敷地内には大舞台があり、京都の街が見渡せます。写真は大舞台からの眺望。

祇園生まれの彼女は放課後、知恩院の大鐘楼の後ろにある登り口から将軍塚まで駆け上がり、夕刻まで遊んでいたと書いています。大人になってからも愛着のある場所であったことに変わりはなく、著書『静かな京』が1985年(昭和60)に文庫化された際、あとがきでも「あなたさんにだけお教えすると、いたしまひょ」と言いながら、桜の名所であることを紹介しました。

桜と紅葉の名所としてより美しく

大村しげさんがもっとも活躍した今から約30~40年前、知る人ぞ知る桜の穴場であった将軍塚は、のちに美しい景観がますます整備され、いまでは人気の名所になっています。将軍塚は天台宗の青蓮院門跡の境内であり、門主の東伏見慈晃さんは昔の様子をよくご存じでした。

京都・三条大橋からクルマで約10分。東山山頂で楽しむ花見と絶景大パノラマ

26年前から青蓮院門跡門主を務める東伏見慈晃さん。優しい語り口が印象的な方で、草木の特徴や庭園の美しさ、見どころをわかりやすく教えていただきました。

「東山全体に椎や樫の木が生えていて、それらは成長すると30mほどの高さになります。以前(門主就任の頃)は塚を大木が覆っていて森のようでした。(将軍塚の麓に位置する)円山公園の桜守から、大昔はそうではなかったから切ったほうがいいとの意見もあり、整備を進めました。和気清麻呂が桓武天皇を案内した際は松の木が少しあったくらいで地面が見えていたと聞きます。それがジェーン台風(1950年)で東山の木々が倒れたため、椎や樫の木を植えて現在の東山の風景になったのです」(東伏見門主)

京都・三条大橋からクルマで約10分。東山山頂で楽しむ花見と絶景大パノラマ

桜の時期には展望台からも見事な桜景色が楽しめます。画像提供/将軍塚青龍殿

2004年(平成16)に門主に就任した東伏見さんは、日本庭園の知識が豊富で植物や庭への愛情を強く持った方です。就任以降は桜と紅葉の名所を目指して敷地内を整備。桜を数多く植えたほか、以前から敷地内にあった作庭家・中根金作の手がけた枯山水をよりよい場所に移設しました。現在では、桜と紅葉がそれぞれ約200本ずつ植えられていて、春と秋の風景は息をのむ美しさです。

京都・三条大橋からクルマで約10分。東山山頂で楽しむ花見と絶景大パノラマ

春と秋には日没後にライトアップが行われます。夕刻、夜間の木々の美しさも見逃せません。画像提供/将軍塚青龍殿

 

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