美味手帖

干し柿の優しい甘さに、上品な白あんを合わせて。和菓子「粋甘粛」でほっとひといき

エッセイ連載「和菓子とわたし」

「和菓子とわたし」をテーマに家庭画報ゆかりの方々による書き下ろしのエッセイ企画を連載中。今回は『家庭画報』2021年12月号に掲載された第5回、染織家の志村洋子さんによるエッセイをお楽しみください。

vol.5 和菓子の色に魅せられて
文・志村洋子

ひと昔前、京都では「お嫁さんのお饅頭」という紅白の和菓子を目にしたものだった。

「お嫁さんのお饅頭」とは嫁入りに際して近所への挨拶回りに配る上用(薯蕷)饅頭のこと。娘を嫁に出す母親の情と、受け入れる母親の願いが小さなお饅頭に込められていて、私は子供心にも居住まいを正して食べていた。祖母はお嫁さんのお饅頭をいただくと、母親の気持ちを汲んで「……さん、ようお嫁に出さはりましたな……」と独り言のように呟きお饅頭に一礼していた。

戦後生まれの私は、洋菓子が珍しい時代に育ったので、和菓子には目がない。美味しそうな和菓子を目の前にすると、嬉しくなり、薄茶をいれようか、渋い番茶にしようか、コーヒーをいれようかと、楽しみでワクワクする。

和菓子は、季節感を色彩によって表現しているので、桜餅や栗饅頭に親しみを覚えてきた。栗の皮で染めた色は、まさにマロングラッセやモンブランの色である。マロン色に染まった糸を見ていると「美味しそうやな!」とつい口に出てしまう。

梅、桃、桜の枝では薄いピンク色に染まり、これも食欲をそそる色である。和菓子と植物の色との相性の良さは、そのネーミングにも表れている。

銘菓と言われるものには、雪月花などの自然由来の名前が付いて、それが何代にもわたって受け継がれている。とても気が利いているので着物の名前に拝借したいと思うことしばしばである。

いつの頃からだろう。和菓子と果物のコラボレーションが始まったのは。

「苺と大福なんて合うかな?」と思っていたが、苺の香りに誘われて思わず口に入れるとジューシィな苺と大福のもっちりした食感に感動した覚えがある。その後トマト、蜜柑、桃、葡萄と次々に果物が和菓子に参入してきた。

今までの小豆、大豆、米、麦などの主な材料に果物も使われるようになった。茶色や黒の世界に明るく透明で香り豊かな色彩が加わったといえるのではないだろうか。

自然の色と香りの和菓子。これからが楽しみである。

志村洋子
染織家。「藍建て」に強く心を引かれ、30代から母・志村ふくみと同じ染織の世界に入る。1989年に織物を通して文化を総合的に学ぶ場として「都機(つき)工房」を創設。2013年には芸術学校アルスシムラを、ふくみ、息子・昌司とともに開校。著書に『色という奇跡』、ふくみとの共著『たまゆらの道』、作品集に『しむらのいろ』『オペラ』がある。

Information

宗家 源 吉兆庵

表示価格はすべて税込みです。

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