常に周囲への感謝を忘れない三浦選手&木原選手。そんな彼らが多大な影響を受けてきたのがブルーノ・マルコットコーチだ。五輪後に金メダルのキーパーソン、ブルーノコーチを取材した田村明子さんの寄稿文をお届けする。
「出会えた感謝と信頼が、彼らには最初からあった」―NY在住のノンフィクションライター 田村明子さん
Akiko Tamuraノンフィクションライター、翻訳家。アメリカの高校・大学を卒業し、NYを拠点に1993年からフィギュアスケートの取材を開始。
見ている誰もが家族のような気持ちで応援したくなるペア

FSは、あなたのために滑るね―三浦璃来
今日は、お互いのために滑ろう―木原龍一
命を預け合う深い信頼関係が大逆転を呼び込んだ
SPでの絶望の涙から大逆転の金メダルという、ドラマティックな物語に日本中の人々が感動し祝福の声をあげた。三浦選手を抱き抱えての木原選手のディープエッジにスキルの高さがよくわかる。「将来的にはペアのコーチを二人でしたい」と語るが、できれば演技するりくりゅうをもう少し見ていたい。
写真/ZUMA Press〈アフロ〉
ミラノ・コルティナオリンピック開幕を控えた2026年1月末、筆者は偶然りくりゅうに会う機会に恵まれた。肩の痛みに耐えかねてニューヨークからトロントに飛び、旧知のマッサージセラピストA氏のところに駆け込んだ。彼はトロントで長年、多くのアスリートの治療をしてきた著名な「ゴッドハンズ」だ。治療中に「この後りくりゅうが来ますよ」と言われ、「えっ」と驚いた。こんなところで顔見知りの記者に会うのは嫌だろうなと恐縮しながら部屋を出ると、二人が待合用のベンチに座っていた。
「あれ! どうして、ここにいるんですか⁉」。木原龍一選手が、ニコニコと笑いながらそう言った。顔がすっきりと輝いていた。「木原さん、何か若返りましたね」「少し身体をしぼったんですよ」。二人とも笑顔に一点の曇りもなく、明るい、内側から光るようなオーラに包まれていた。「ああ、これはいける!」と確信して、帰宅後A氏にメールを打った。「彼ら、金メダル取りますよ!」。
だがあそこまでドラマチックな勝利になるとは、予想していなかった。筆者はオリンピック後再びトロントに飛び、ブルーノ・マルコットコーチに話を聞いた。
今回もっとも感動したのは、SP後に心が折れかけた木原選手を励まし、支え続けた三浦璃来選手の強さである。これまで多くのペアを見てきたが、ミスをしたパートナーへの失望を隠せない組もいた。だが二人はずっとお互いを信じ、支えあってきた。
SP後、うなだれる木原選手。
写真/ロイター〈アフロ〉
ブルーノコーチはこう説明する。「ペアでは自分だけではなく、相手のやることがキャリアにかかってきます。信頼とは、お互いがやるべきことをきちんとやるだろうと信じること。そして何が起きても相手のためにそこにいる、ということです」。りくりゅうの特別な信頼関係は、早いうちから確立されていたという。「お互いの夢を達成するために、出会えたことに感謝する気持ちと信頼が最初からあったと思います」。
FSで驚異の世界歴代最高得点を獲得。嬉し涙の金メダル。
写真/スポーツ報知〈アフロ)
さらにブルーノコーチは、二人の演技を見ると、まるで彼らの家に招待されたかのような特別な気持ちになると語った。スケートの素晴らしさもさることながら、彼らの人気の秘密はここにあると思う。良い時だけでなく、つらい時も二人で乗り越えてきた。それをこれほど素直に氷の上で見せてくれるペアは、他にいない。見ている誰もが、まるで彼らの家族になったかのような気持ちで応援したくなるペア。それがりくりゅうの最大の魅力だと思う。
夢を達成した今、彼らが競技を続けるのかどうかまだわからない。だが一つ確かなのは、二人を見てペアをやりたいと思う子供たちが増えるだろうということだ。彼らの金メダルは、スケート大国日本の新たな時代の始まりに違いない。
閉会式でもリフト!
写真/森田直樹〈アフロスポーツ)