晴れ着姿で、石清水八幡宮へお詣りに フィギュアスケーター 三浦璃来+木原龍一 歴史を変える奇跡のペア カップル競技の強化が長年の課題とされていた日本のフィギュアスケート界において、今や牽引する立場にいる奇跡のペア、三浦璃来選手&木原龍一選手。世界チャンピオンとして迎えた今シーズン、2026年2月にはミラノ・コルティナ冬季五輪が待っている。練習拠点のカナダから一時帰国中のある日、京都府八幡市にある石清水八幡宮へお詣りに出かけた二人に密着取材。笑い声溢れる一日となった。
晴れ着に身を包み、勝負の神様に参拝。笑顔で五輪の舞台へ
【1】三ノ鳥居から南総門へ向かう参道で京都駅から1時間強。京都府八幡市男山の峯に位置する石清水八幡宮へお詣りに出かけた、三浦璃来選手&木原龍一選手のお二人。平安時代初め、859年から続く宮の三ノ鳥居をくぐり、南総門へ。
【2】国宝に指定された御社殿の廻廊で荘厳な社殿形式と近世的な装飾を兼ね備えた社殿建築が評価され、平成28年国宝に指定。八幡造りの御社殿は1634年、徳川3代将軍家光公により造替されたもの。
華やかな空色と洗朱の雲取りに、端正な友禅で花の丸文様を描いた振袖で装う三浦さん。今後の氷上での戦いに向けて、武将の鎧の威(おど)しを取り入れた勇壮な帯で。
振袖・帯/創作京呉服 多かはし
伊達衿・帯揚げ・帯締め/和小物さくら
髪飾り/かづら清老舗 バッグ/井澤屋
履物/銀座ぜん屋本店
グレートーンでまとめたノーブルな姿の木原さん。小さなドットを織り出した風通お召のきものに、仙台平の袴、辻ヶ花染めの名手・小倉淳史さん作の羽織で凜とした装い。厄除け、開運の神様に礼を尽くして参拝し、心新たに氷上へ向かう。
きもの・羽織・帯・袴一式/銀座もとじ 男のきもの
履物/銀座ぜん屋本店
「仲よしの母親ペアと一緒にお詣りできて嬉しいです」──三浦璃来

Riku Miura
2001年12月17日、兵庫県生まれ。中京大学卒業。女子シングルの後15年にペア転向。木原選手と出場した22年北京五輪では日本史上初の個人戦7位入賞、団体戦銀メダル。さらなる飛躍が期待される。
【4】東門にて絵馬を奉納木原選手と二人で、真剣に文言を相談して書いた絵馬を手にする三浦選手。立っている御社殿の東門は、ご祈禱を受けるときに入る御本殿(国宝)の入り口でもある。
「七五三以来のきもので参拝。神聖な気持ちになれました」──木原龍一

Ryuichi Kihara
1992年8月22日、愛知県生まれ。中京大学卒業。2013年男子シングルからペア転向。五輪にはペアで3度出場。19年7月末に結成した三浦選手との“奇跡のペア”で歴史を塗り替え続けている。
【3】築地塀前で御神弓矢を手に瓦と土を交互に積み重ねる織田信長ゆかりの製法で造られた、通称「信長塀」の前で。この宮と熱田神宮のみに現存。八幡大神様の故事にあやかった御神弓矢を手に。
・お二人の晴れ着姿をフォトギャラリーで見る→
2019年のペア結成以来、世界選手権2度の優勝や北京五輪での団体銀メダル獲得、24年度スケーター・オブ・ザ・イヤー獲得など、国内はもちろん世界からもトップスケーターとして、一目置かれる存在になった三浦璃来選手&木原龍一選手。
参拝した石清水八幡宮では、二人の転機となった出来事や最強の応援団であるご家族のお話などを中心に、後半でご紹介する25/26シーズン前半3試合の振り返り取材では、目指す世界観について語ってくれた。 チーム・ブルーノの団結力、怪我の経験が進化の要因
──今回は初詣気分ということで、晴れ着を着て石清水八幡宮へお詣りの密着取材となりましたが、まずはきものの感想をお聞かせください。三浦選手(以下、三浦) 私は成人式以来なので、本当に新鮮でした。色合いも素敵で、なにより私たち二人揃って着る機会は初めてですし、しかも神聖な場所にお詣りもできて嬉しいです。
木原選手(以下、木原) 僕なんて七五三以来のきものですよ(笑)。帯を締めるときに身が引き締まる思いがしたのですが、勝負の神様として多くの武将たちからも信仰されている石清水八幡宮さんでご祈禱もしていただけて、清々しく神聖な気持ちになれました。
【5】舞殿に植えられた橘石清水八幡宮のご神紋の一つである橘の木は舞殿の東西に植えられている。その実は古来より、不老長寿の霊薬とされている。
──お二人はいつも楽しそうにツッコミ合っている印象ですが、仲のよさも人気の理由の一つだと思います。転機になったと思われる出来事が何かあったら、お聞かせください。三浦 私の中ではやはり、コロナ禍にカナダで過ごした時間が一番大きいと思っています。それまでは日本とカナダを行ったり来たりの生活だったのですが、カナダの国境が閉鎖された一年半もの間、帰国できなくなったんです。その日々で、龍一くんとのコミュニケーションもグッと深まりましたし、なによりもブルーノコーチやメーガンコーチ、振り付けの先生方など、チーム・ブルーノの信頼感が格段に強くなったと感じています。
木原 本当にそう思います。試合が中止になった一年半の間、ブルーノコーチの元でひたすら練習に集中できたのは奇跡的なこと。もちろん大変でしたが、今思えばプラスの面もありました。あの日々が、今の力のベースになっていることは間違いありません。
三浦 あとはやはり怪我をした経験も大きいと思います。
──さらなる飛躍が期待されていた22年7月に三浦選手が転倒して、左肩を脱臼されたんでしたね。三浦 はい。アイスショーで転倒したときに痛めてしまって。怪我をしている間は一緒に行う練習がストップしてしまうので、申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。
──それを乗り越えて、22/23シーズンは年間グランドスラムを達成されました。その後、木原選手の腰椎分離症が判明して、23年の10月から24年2月初めまで欠場されたんでしたね。三浦 怪我をすることは辛いのですが、私が先に、焦りや申し訳なさをどうセルフコントロールするのがいいか経験済みだったので、怪我したときに感じるそういった気持ちを分かち合えたことは、よかったのかもしれません。
木原 璃来ちゃん、脱臼や亜脱臼などの経験をして、すごく頼り甲斐が出てきたんです。突発的なアクシデントが起きて、避けられないときもあるのですが、できれば怪我はしたくない……。でも怪我したことによって、今まで以上に体のケアをしっかりしなければならないという気づきにはなりました。璃来ちゃんとの間はもちろんですが、コーチやトレーナーさんたちすべての絆がさらに深くなって。それは本当に素晴らしい経験でした。
──怪我への向き合い方で、何か変わったことはありますか?三浦 全部です。トレーニング、リハビリ、食生活などのすべてで、怪我をしないための体づくりをより意識するようになりました。龍一くんの怪我をきっかけにピラティスを取り入れ始めたり、トレーナーさんにダンベルを使ってのコア(体幹)トレーニングを教えていただいたり。自己流とはアプローチが違うので、すべてが勉強です。
木原 確かに、トレーニング内容を少し見直したことで、スケートの動きが変わってきているのは実感します。
【6】幣殿の東西を彩る一刀彫石清水八幡宮所有が所有する150点もの 彫り物の中で、最大サイズの彫刻となる一刀彫。一対の阿吽の鳳凰が幣殿の東西を飾る。
2家族でワンチーム!お互いの家族が心の拠り所
──食生活といえば、お二人は自炊されているんですよね?木原 はい。管理栄養士さんから指導を受けて、さらに充実したと思います。日頃からお互いに作ったものをシェアし合って、できるだけ偏らないで食べるように心がけています。
──お互いの料理でこれはお気に入り!というメニューはありますか?三浦 龍一くんのお母さまに教えていただいたトマトサラダが大好きです。
木原 スライスしたトマトと塩もみしたみじん切りの玉ねぎを合わせ、お酢と塩こしょうをかけるだけで簡単なのですが、さっぱりしておいしいんです。
三浦 龍一くんがそれを作ったときに、もらいすぎてよく怒られます(笑)。
木原 璃来ちゃんが作るうどんメニューも美味しいよね。
三浦 味噌チゲうどんを一人分作って食べていたら「僕のは?」って(笑)。
──それにしても、お互いのお母様とも仲よしですよね? 今日は滅多にない晴れ着撮影なので、木原選手、三浦選手のお母様方もいらしていますが、2家族が1チームとなって、お二人を支えているのがよくわかります。木原 親同士がすごく仲がいいので、そっちもペアみたいです(笑)。
三浦 国内大会には2家族で一緒に見に来てくれるんです。龍一くんのお母様がすごく明るい方なので、いつも試合前に会っていただくようにしていて。「頑張って!」ではなく「楽しんできてね」といってもらえると、すごく気持ちが軽くなるんです。
木原 旅行ついでに大会を観に来ました的なノリだよね。あれがおいしかった、ここが楽しかったとか(笑)。
三浦 それがいいんですよ。こっちも楽しい気持ちで試合に臨めるから。龍一くんの怪我が治って復帰戦のときには「待っていてくれてありがとう」なんて、グッとくるメッセージをくださったり。距離感が適切なんです。そして、うちの母も実務的なことに関するやりとりは、いつも私を飛ばして龍一くんと直接しています(笑)。
──改めて、お二人にとってご家族はどういう存在だと思われますか?木原 目の前にしていうのもなんですが(苦笑)、どんなときも応援してくれる家族の存在というのは本当に心強いです。ずっとカナダを練習拠点にしている中で、遠くにいても安心の拠り所になってくれています。家族のサポートがないと成り立ちませんから。
三浦 そのとおりです。ペアは気をつけないと怪我をしやすいので、過保護になってしまう保護者も多いんです。でも、母は「龍一くんを信じているから、ビシバシやってください」と。何かあっても私ではなく、龍一くんの味方をするんですよ(笑)。そんな感じでお互いの家族が、本当に私たち二人を応援してくれているのが嬉しいんです。ここまで両家族がワンチームになってサポートしてくれる関係性は、珍しいかもしれません。
木原 家族をはじめ、支えてくださる周囲の皆さまへの感謝の気持ちを込めて、観てくださっている皆さまが笑顔になれる、僕たちらしい演技をミラノ・コルティナ冬季五輪でも目指します。
三浦 お詣りもできたし頑張ります!

【14】約2年に及ぶ檜皮屋根の修理が終了し、2024年12月にお目見えした南総門にて。八幡御神弓矢は破魔矢の原型説もある。
“りくりゅう”とともに、境内でお詣り気分

イラスト制作/ワークプレス
【7】「八不思議」の一つ、斜めを向く御社殿南総門を抜けて御社殿を望むと、少し西を向いていることがわかる。神様が通られる参道の真正面をずらして作られたとも。
【8】手水舎で身を清めて参拝へ
南総門をくぐる前に手水舎に。左手、右手の順で両手を清め、軽く口をすすいだら、最後にもう一度、左手を清め御本殿へ。
【9】御本殿前でご挨拶
参拝の作法にのっとり、御本殿前で二礼二拍手一礼のご挨拶。90度近く、深い礼をする流れのユニゾン(調和)も見事!
【10】絵馬の文言を相談中
普段は笑顔のお二人も絵馬に書く願い事の相談中は至って真剣。石清水八幡宮には干支絵馬、祈願絵馬、合格絵馬の3種類あり。
【11】豊臣秀吉奉納の釣灯籠
2026年度大河ドラマ『豊臣兄弟!』の主役の1人、秀吉が九州平定成功の感謝を込め奉納した金銅製釣灯籠。通常は非公開。
【12】ご祈禱で厄除開運を祈願
ご祈禱場所は徳川3代将軍・家光が造替した神聖な御本殿内部。清め衣を首から掛け、八幡御神弓矢を手にご祈禱を受けた。
【13】清め衣を納所へ納めて
御本殿でのご祈禱終了後、清め衣に氏名、年齢、祈願内容を書き、清め衣納所に納める。お二人とも「笑顔」と祈願。
国家鎮護、厄除開運、必勝・弓矢の神 石清水八幡宮貞観元(859)年、清和天皇の命により建立された。源氏一門の氏神、武神でもあった八幡大神様は、織田信長、豊臣秀吉・秀頼親子、徳川家光にも崇敬され修復や造営を受けている。神様の使いとして鳩がシンボル。伊勢神宮とともに二所宗廟。八幡造り建築としては最大最古で本社10棟などが国宝に指定されている。
京都府八幡市八幡高坊30
TEL:075(981)3001
京阪電車「石清水八幡宮駅」下車、参道ケーブル「八幡宮口駅」乗車、「八幡宮山上駅」下車。徒歩5分。駐車場あり。
https://iwashimizu.or.jp/about/story/(次回へ続く。)