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図像で読む聖書の世界【第1回:後編】 立教大学に今も息づく、キリスト教美術たち

2026.10.13

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[連載]図像【イメージ】で読む聖書の世界(後編) 西洋美術を読み解く鍵は、聖書の物語とそこから生まれた図像【イメージ】にあります。100年にわたり日本で育まれてきたキリスト教美術研究の成果をもとに、その豊かな世界へご案内します。

立教大学とキリスト教美術

立教大学図書館所蔵の『ハインリヒ2世の典礼用福音書抄本』ファクシミリ版の外装。

立教大学図書館所蔵の『ハインリヒ2世の典礼用福音書抄本』ファクシミリ版の外装。

その挿絵ページ。この原作は1007~1014年頃、神聖ローマ皇帝ハインリヒ2世が典礼儀式に用いるため、ドイツのライヒェナウ島修道院で制作された豪華写本。オットー朝美術の最高傑作とされる。下の挿絵の左側「羊飼いへのお告げ」、右側「キリストの降誕」では、まばゆい金箔を背景として、大きな人物像の洗練された身振りと色彩が印象的である。バイエルン州立図書館蔵(Clm.4452,fol.8v.-9r)。

その挿絵ページ。この原作は1007~1014年頃、神聖ローマ皇帝ハインリヒ2世が典礼儀式に用いるため、ドイツのライヒェナウ島修道院で制作された豪華写本。オットー朝美術の最高傑作とされる。下の挿絵の左側「羊飼いへのお告げ」、右側「キリストの降誕」では、まばゆい金箔を背景として、大きな人物像の洗練された身振りと色彩が印象的である。バイエルン州立図書館蔵(Clm.4452,fol.8v.-9r)。


立教大学のルーツは、1874(明治7)年、イギリス国教会の流れを汲むアメリカ聖公会の宣教師が「聖書」と「英語」を教えるために築地に開設した私塾、立教学校です。1916(大正5)年に池袋に建設が始まった校舎群は、赤レンガ造りのネオ・ゴシック様式で、チャペルはもちろんのこと、キャンパス内の至る所でキリスト教文化が息づいています。

立教大学池袋キャンパス内の場景。右・チャペルの屋根に設置されたケルト十字架の石彫。立教大学がイギリス国教会の伝統に属することを示す。中・チャペル内の鷲の姿をした聖書台。マンチェスター大聖堂の旧蔵品だが、1953年のエリザベス女王戴冠式に際し、招待された小川徳治教授がマンチェスター主教より寄贈された英国製。左・第一食堂の椅子の背もたれを飾るユリの花の紋章。キリスト教文化において純潔の象徴とされるユリのマークは、立教大学ではセカンダリー・シンボルとしてさまざまなグッズに用いられ、学生たちに親しまれている。

立教大学池袋キャンパス内の場景。右・チャペルの屋根に設置されたケルト十字架の石彫。立教大学がイギリス国教会の伝統に属することを示す。中・チャペル内の鷲の姿をした聖書台。マンチェスター大聖堂の旧蔵品だが、1953年のエリザベス女王戴冠式に際し、招待された小川徳治教授がマンチェスター主教より寄贈された英国製。左・第一食堂の椅子の背もたれを飾るユリの花の紋章。キリスト教文化において純潔の象徴とされるユリのマークは、立教大学ではセカンダリー・シンボルとしてさまざまなグッズに用いられ、学生たちに親しまれている。


1922(大正11)年に大学認可された当初から、文学部に宗教学科(現在のキリスト教学科)が置かれ、ここでは、旧約聖書・新約聖書の原典であるヘブライ語やギリシア語、さらにラテン語など、聖書を深く理解するために不可欠な古典語を学べます。近年の大学では「国際化」が盛んに語られますが、その多くはメジャーな英語教育に重点が置かれ、これらの古典語を体系的に学べる場は、今や貴重な存在になりました。


キリスト教芸術の学問的伝統をたどると、1922年当時、東京帝国大学で美学を学んだ辻 荘一(1895~1987)が着任し、キリスト教音楽研究がまず活況を呈しました。戦後、1958(昭和33)年にキリスト教美術教員として三浦アンナ(1894~1967)が着任すると、新たなキリスト教美術研究の歴史が始まります。ドイツ人であった彼女は、戦前ベルリン大学で学び、女性で初めて神学博士号を取得した研究者でした。学生時代から美術史に関心を寄せ、来日後は京都の大学で教鞭を執りながら、1957(昭和32)年に「藝術に現れたヨハネ」(原文独語)で京都大学文立教大学とキリスト教美術学博士号を授与され、翌年に立教大学教授として東京に赴任しました。

《三浦アンナの肖像》(当時37歳)。1932年に神学者の有賀鐵太郎が描いたデッサン。有賀はその後、同志社大学神学部の初代学部長、京都大学文学部キリスト教学研究室教授、文学部長も務めた。当時の二人の交流がうかがえる素描。

《三浦アンナの肖像》(当時37歳)。1932年に神学者の有賀鐵太郎が描いたデッサン。有賀はその後、同志社大学神学部の初代学部長、京都大学文学部キリスト教学研究室教授、文学部長も務めた。当時の二人の交流がうかがえる素描。


彼女の精力的な研究は『藝術に現れたヨハネ』(1954)、『白馬に乗れるロゴス』(1957)、『イエスの幼年時代─福音書と芸術による考察─』(1958)という3部作に結実しています。彼女は日本に初めて「キリスト教図像学」を紹介した一人であり、その研究の礎を築いたのです。キリスト教図像学とは、造形表現の意味、起源や変遷、神学的思想、歴史的文脈などを読み解く学問で、美術を体系的に論じる重要な方法論の一つです。現在に至るまでその伝統は受け継がれ、立教大学では「キリスト教美術」に関する15以上に及ぶ講義が展開されています。また、両教授のキリスト教芸術研究の功績を記念して「辻荘一・三浦アンナ記念学術奨励金」が創設され、毎年、同分野の若手研究者が表彰されています。

三浦の著作群。右側『藝術に現れたヨハネ』(1954)と中央『白馬に乗れるロゴス』(1957)では表紙の装幀に三浦の描いた素描が使用されている。彼女は絵もたしなみ、画廊で個展も開催していた。

三浦の著作群。右側『藝術に現れたヨハネ』(1954)と中央『白馬に乗れるロゴス』(1957)では表紙の装幀に三浦の描いた素描が使用されている。彼女は絵もたしなみ、画廊で個展も開催していた。


図書館の充実した蔵書も、教員と学生の研究生活を支えています。キリスト教美術関連で特筆すべきは、日本を代表する中世美術史家、辻 佐保子(1930~2011)の旧蔵コレクションです。120冊以上に及ぶ高価な写本ファクシミリは、歴史的価値を有する写本の原本を忠実に複製・再現したもので、サイズ、色、保存状態、その他の物質的特徴においても、研究の一次資料として大きな価値を持ち、他の貴重書とともに立教の研究環境を国内随一の水準へ押し上げています。

加藤磨珠枝(かとう・ますえ)

加藤磨珠枝(かとう・ますえ)
立教大学文学部キリスト教学科教授(現文学部長)。専門は西洋中世美術史。東京藝術大学卒業後、ローマ大学大学院へ留学。東京藝術大学美術研究科博士後期課程修了、博士(美術)。2026年秋には『アートバイブル新約聖書:絵で見る100の場面』が日本聖書協会より出版予定。


次号からは、これらの資料を駆使した「大人の教養時間:イメージで読む聖書の世界」をお楽しみください。

この記事の掲載号

『家庭画報』2026年10月号

家庭画報 2026年10月号

撮影/本誌・大見謝星斗 撮影協力/立教大学

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