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図像で読む聖書の世界【第1回:中編】 言葉だけでなく、図像(イメージ)で広まった聖書の教え

2026.10.09

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[連載]図像【イメージ】で読む聖書の世界(中編) 西洋美術を読み解く鍵は、聖書の物語とそこから生まれた図像【イメージ】にあります。100年にわたり日本で育まれてきたキリスト教美術研究の成果をもとに、その豊かな世界へご案内します。

図像【イメージ】で聖書の教えを広める

教大学図書館が誇る中世写本ファクシミリ版(複製)・コレクションより。上の写真の原作は『ヨシュア画巻』と呼ばれ、10世紀ビザンティン美術の代表作。旧約聖書のヨシュア記を全長10メートル余りの巻物という特殊な表現形式で描いた古典的特徴を示す。日本の絵巻物と同様に、各挿絵と下部のギリシア語テキストを順に追うことで、物語が時間的に展開する。現在はヴァティカン図書館蔵(Ms.gr.431)。

教大学図書館が誇る中世写本ファクシミリ版(複製)・コレクションより。上の写真の原作は『ヨシュア画巻』と呼ばれ、10世紀ビザンティン美術の代表作。旧約聖書のヨシュア記を全長10メートル余りの巻物という特殊な表現形式で描いた古典的特徴を示す。日本の絵巻物と同様に、各挿絵と下部のギリシア語テキストを順に追うことで、物語が時間的に展開する。現在はヴァティカン図書館蔵(Ms.gr.431)。


聖書の世界は、言葉だけでなく、目で見る「イメージ」によっても伝えられてきました。中世の時代、文字は限られた知識層しか読むことができず、聖書の物語を表した絵画や装飾は信仰を支えるもう一つの言語でした。いわゆる「文字の読めない者たちの聖書」という美術の役割です。こうした一般民衆の教化だけでなく、あらゆる社会層へ向けて、教会堂の壁にはさまざまな聖書の物語や聖人たちの姿が描かれました。また、修道院の写本工房では、聖俗の注文主のために、豊かな挿絵や金で飾られた数々の写本が制作されました。それらは単なる絵解きや装飾ではなく、神の栄光を象徴する宝物であり、信徒たちを瞑想へと導く「祈りのメディア」だったのです。

上下の写真の原作は、『ベアトゥス黙示録註解(モーガン本)』。8世紀スペインの修道士ベアトゥスが編纂・執筆した『ヨハネの黙示録註解』のテキストに基づく10世紀の彩飾写本。初期中世スペイン美術を特徴づける大胆な色彩と構図の傑作。現在はニューヨークのモーガン図書館蔵(Ms.644,f.152v-153)。

上下の写真の原作は、『ベアトゥス黙示録註解(モーガン本)』。8世紀スペインの修道士ベアトゥスが編纂・執筆した『ヨハネの黙示録註解』のテキストに基づく10世紀の彩飾写本。初期中世スペイン美術を特徴づける大胆な色彩と構図の傑作。現在はニューヨークのモーガン図書館蔵(Ms.644,f.152v-153)。

しかし、すべてのキリスト教徒が、美術表現に好意的であったわけではありません。「イコノクラスム(聖像破壊運動)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは、宗教的な画像や神の像を「偶像崇拝」に結びつくものとして否定し、撤去・破壊しようとする行為のことです。この考えの根拠となったのが、旧約聖書のなかでモーセが神から授けられた「十戒」です。その一節には「いかなる像も造ってはならない。(中略)それらに向かってひれ伏したり、それらに仕えたりしてはならない。」(出エジプト記20:4-5)という神の掟が明文化されており、この言葉に従うならば、キリスト教美術とは、そもそも神の言葉に背く行為と理解されたからです。

その結果、東方ビザンティン帝国では、8~9世紀にかけて皇帝がイコン画などの聖像表現を禁じる勅令を発し、帝国内の多くのイコン画が組織的に破壊され、教会からは数多くのモザイク画や板絵が剝ぎ取られました。同じく、16世紀ヨーロッパ全土を揺るがした宗教改革においても、一部のプロテスタント指導者たちは、教会の豪華な装飾や彫像を、信仰を妨げる偶像として激しく非難しました。彼らの思想に感化された民衆による破壊行為は過激を極め、聖像の首をはね、ステンドグラスを粉砕し、壁画を白く塗りつぶすといった暴動が各地で起こったのです。


このように、信仰上の正しさを求めて、形あるものを否定するという動向は、決してキリスト教圏や過去に限られた話ではなく、偶像崇拝を禁じるイスラームにおいても共通の文化的土壌を見いだすことができます。

キリスト教世界において聖像破壊の嵐が吹き荒れるたびに、美術を必死に守り抜こうとする擁護派の理論もまた精緻化されることになりました。要するに、キリスト教美術とは、それ自体が自明の存在として発展してきたのではなく、長い神学論争の歴史のなかで、時に糾弾され破壊の対象となりながらも、信仰の導き手としての意義を再認識され、擁護されることによって継承されてきた文化遺産なのです。この考え方は、後のヨーロッパ美術の根幹となります。

各地の写本工房では、聖書はもちろんのこと、古代の文学や哲学、教父著作、法文書、医学・天文学などの学術書、年代記や地誌といった歴史記録まで、多様な知の伝統が筆写によって受け継がれていきました。羊皮紙に描かれた聖書の挿絵は、天の神、そして地上に人間となって登場したイエス・キリストの物語を視覚的に展開し、信徒の瞑想を導くものでした。それらの場面では、文字と絵が一体となり、神の言葉が色彩と形を伴って現れます。

立教大学池袋図書館の読書スペース。延床面積約1万9000平方メートル、収蔵可能冊数約204万冊、閲覧席数1520席を有する国内最大級の大学図書館として2012年に竣工。校舎群の歴史的建造物と調和するように造られ、木目を基調とした重厚な内装と機能性でグッドデザイン賞を受賞した。快適な図書館空間は、日々多くの学生たちで賑わう。

立教大学池袋図書館の読書スペース。延床面積約1万9000平方メートル、収蔵可能冊数約204万冊、閲覧席数1520席を有する国内最大級の大学図書館として2012年に竣工。校舎群の歴史的建造物と調和するように造られ、木目を基調とした重厚な内装と機能性でグッドデザイン賞を受賞した。快適な図書館空間は、日々多くの学生たちで賑わう。


現代の私たちが、美術館や図書館に保存されたこれらの絵画作品を目にするとき、そこに描かれた色や線は言葉を超えて、信仰と芸術が交わる場所として、静かに語りかけてきます。絵画の中の光と色彩は、1000年を超えてなお、神の言葉を映し出す鏡なのです。

加藤磨珠枝(かとう・ますえ)

加藤磨珠枝(かとう・ますえ)
立教大学文学部キリスト教学科教授(現文学部長)。専門は西洋中世美術史。東京藝術大学卒業後、ローマ大学大学院へ留学。東京藝術大学美術研究科博士後期課程修了、博士(美術)。2026年秋には『アートバイブル新約聖書:絵で見る100の場面』が日本聖書協会より出版予定。



※次回へ続く。

この記事の掲載号

『家庭画報』2026年10月号

家庭画報 2026年10月号

撮影/本誌・大見謝星斗 撮影協力/立教大学

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