〔特集〕第19回ショパン国際ピアノコンクール第4位入賞 桑原志織、藤田嗣治と出逢う 初めての美術館リサイタル ご両親の「志を持ってほしい」そして「織姫のように美しく」という願いを込めて志織と名づけられた少女は、たおやかでおおらかな大人の女性に。その人こそ第19回ショパン国際ピアノコンクールにおける日本人最高位に輝いた桑原志織さんです。桑原さんにとって初めての美術館リサイタルに密着、奏でる音色やお話を通して、その人となりに触れました。
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私とピアノ
──本番が好きな私の進む道

軽井沢安東美術館「サロン ルダミエ」で演奏する桑原さん。力強さと柔らかさとが同居した豊かな響きで聴衆を魅了した。
私は、ピアニストになりたいという「志」が小さい頃からあったわけではありません。でも、ピアノを弾くこと自体は好きでしたし、感覚的に「もしかしたら自分は上手かも」と思える、自信とモチベーションのある分野ではありました。
我が家はごく普通の家庭で、両親も学業優先というスタンスでしたが、小学校高学年になり、クリスチャン・ツィメルマンなどの来日公演を聴く中で、ピアニストというものに、少し憧れが芽生え始めたように思います。
また、中学に上がって有名な教授にレッスンをしていただいた折に「才能があると思うから頑張って」といっていただき、より強く自信を持ちました。中学二年生で学生コンクールに挑戦する中で「ピアノを真剣にやってみたい」という気持ちが湧き、家族会議を重ねて東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校(藝高)を受験し、大学は東京藝術大学(藝大)に進みました。
私の場合、身近に手本となるロールモデルはいませんでしたので、入学してから、さまざまな困難に直面して現実を知る、を繰り返すことになるのですが……。

私は藝高在学中の2013年に「ピティナ・ピアノコンペティション」に挑戦し、特級部門で銀賞そして聴衆賞と王子ホール賞を受賞しました。そして翌年には「日本音楽コンクール」にも挑戦し第2位、そして岩谷賞(聴衆賞)をいただきました。国内で最高峰と称されるピアノコンクールでよい成績を収めればピアニストになる夢は叶うのかと思いきや、今度は目の前に国際コンクールが聳え立っています。夢に向かう山はどんどん高くなり、それを繰り返して現在に至っています。
美術館中庭のベンチでくつろぐ桑原さん。
私はのんびりとした人間です。先のことを見通せたらいいのでしょうが、そんな才覚はなく、わからないことがありすぎます。考えても仕方のないことで悩むのは意味のないことです。くよくよしない性格は、ピアニストに向いているのではないかなと思っています。なぜなら、ステージで演奏する以上は、開き直って椅子に座るというのも必要な要素ではありますから。
ショパン国際ピアノコンクールに出る前と後とでは、自分の置かれている環境が大きく変わりました。移動一つとっても違います。以前は、東京周辺で演奏会を行うことが多かったので、移動に時間を取られることはあまりありませんでした。ですが、今では方々へ移動し続けて弾いています。移動して演奏して、を繰り返していると、普段の自分の演奏と本番とが少し違う状態になってきます。
もちろん、本番は集中してその場で作り上げていくのですが、練習で積み上げたものからは少し離れた状態になっていると感じるときがあります。それを修正、微調整する時間が必要なのですが、移動が重なり続けると体力そして気力の面も含めて難しさを感じるときがあります。
これは今、まさに私が直面している課題だと思います。クオリティを常に維持するためにどうしたらよいか、試行錯誤しながら取り組んでいるところです。ピアノに関しては全く器用ではないので、時間をかけるが正解、不器用愚直まっしぐらで向き合っています。
この道を歩めば困難が次々出てくるのでしょうが、一歩ずつ私らしく進もうと思います。なぜなら、私は本番が大好きでピアニストになったのですから。練習し尽くした曲をフレッシュに感じて、聴いてくださるお客様にベストの演奏を届けたいと思っています。
訪れた場所
「軽井沢安東美術館」

2022年10月に、日本初にして世界初の「藤田嗣治作品だけを所蔵する」美術館として開館。コレクター安東氏が自邸に作品を飾っていた雰囲気をそのままに再現した展示室には、藤田のエポックごとに作品が飾られている。今回の演奏会は、ショパンコンクール直後に安東氏が熱烈にラブコールし実現した。
住所:長野県北佐久郡軽井沢町軽井沢東43-10
電話:0267(42)1230
https://www.musee-ando.com/
桑原志織 (くわはら・しおり)第19回ショパン国際ピアノコンクール第4位入賞。グラモフォン誌に「堂々たる風格と気高さ」と評され国際的注目を集める。ルービンシュタイン国際第2位、エリザベート王妃国際ファイナリスト等、世界の主要コンクールで輝かしい実績を誇る。東京藝術大学を首席卒業後、ベルリン芸術大学にて国家演奏家資格課程を修了。2026/27シーズンはプラハ交響楽団との日本ツアーや欧州の音楽祭へ出演。豊かな物語性と高度な技巧で世界を魅了している。
【桑原志織公演情報】
トマーシュ・ネトピル指揮
プラハ交響楽団 ニューイヤー名曲コンサート
桑原志織さんの演奏によるべートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番変ホ長調Op.73「皇帝」を聴くことができる会場は以下のとおりです。
◆2027年1月7日時間:19:00開演
場所:倉敷市民会館
問い合わせ先:岡山県音楽文化協会 086(224)6066
◆2027年1月8日時間:19:00開演
場所:ザ・シンフォニーホール
問い合わせ先:ザ・シンフォニーチケットセンター 06(6453)2333
◆2027年1月11日時間:14:00開演
場所:横浜みなとみらいホール
問い合わせ先:ジャパン・アーツぴあ 0570-00-1212
◆2027年1月13日時間:19:00開演
場所:東京芸術劇場コンサートホール
問い合わせ先:ジャパン・アーツぴあ 0570-00-1212
桑原志織ピアノ・リサイタル
◆2026年12月10日時間:19:00開演
場所:札幌コンサートホールKitara
問い合わせ先:テレビ北海道 011(351)7277
(次回へ続く。
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