名字の世界 姓氏研究家の森岡 浩さんが日本人の名字を紹介します。あなたの意外なルーツが分かるかも?知れば知るほど面白い、名字の世界をお届けします。
連載一覧はこちら>>
難読名字:莨谷(たばこや)
「莨谷」という名字があります。かなり珍しい名字にもかかわらず京都市や高松市など各地に点々とあり、さらに読み方もいくつかあるというユニークなものです。こうして各地に点々とある名字の場合は、特定のルーツがあるのではなく、日常的に使われていた言葉などに由来があります。
そもそも「莨」という漢字は現代ではあまり見ることがありません。
さて、タバコは外来語です。タバコが日本にもたらされたのは、慶長6年(1601)にフランシスコ会の修道士らが、たばこの種子を平戸藩主松浦鎮信に贈ったのが最初とされ、平戸市の平戸城内(亀岡神社境内)には「日本最初 たばこ種子渡来之地」という石碑が建てられています。スペイン語では「tabaco」と書き、ここから日本語で「タバコ」となりました、
外来語のため本来漢字はありません。そこで、植物としてのタバコを指す「莨」という漢字と、意味に漢字を当てた当て字の「煙草」という書き方が使われるようになりました。
江戸時代には「莨」を使うことが多く、明治以降には「煙草」が主流になったようです。従って、名字では「莨」を使うことが多いのです。
では「莨谷」とは何か、というとタバコを扱っていた商家の「莨屋」が、名字を登録する際に「屋」を「谷」に変えたものです。従って「たばこや」が本来の読み方だと思われます。しかし、名字を登録する際に「~や」を「~たに」に変えることも多く、「たばこたに」「たばこだに」とも読みました。さらにそこから短くなって「たばたに」という読み方もあります。
なお、山口県周南市などでは、「煙草谷」と書くこともあります。
・
ほかの名字の由来も読む>>
森岡浩/Hiroshi Morioka姓氏研究家。1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部在学中から独学で名字の研究をはじめる。長い歴史をもち、不明なことも多い名字の世界を、歴史学や地名学、民俗学などさまざまな分野からの多角的なアプローチで追求し、文献だけにとらわれない研究を続けている。著書は「全国名字大辞典」など多数。
墨アート製作 書家・越智まみ(
https://esprit-de-mami.com/)