稲妻のゆたかなる夜も寝べきころ
中村汀女
選・文=夏井いつき(俳人・エッセイスト)「稲妻」の「妻」の一字を不思議に思われたことはないだろうか。歳時記の解説には「稲妻は稲の夫(つま)の意」とあり、稲が雷光と交わることで稔(みのる)という言い伝えから生まれた名だという。
一日を終え、「寝(ぬ)べき」時間となっているが、夜空では雷光が鮮烈に走り、地上では稲が交尾を待つかのように深々と風にうねっている。「ゆたかなる」の一語は、多彩なかたちに走る稲妻の閃光であり、稲と雷光の交合への畏れであり、木石にも神が宿ると信じる私たち日本人の心のありようでもあるのだ。
●中村汀女 俳人(1900~88年)。高浜虚子に師事。俳句の表記は『中村汀女全句集』(毎日新聞社/2002年) に準じた。
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