連載「絹糸に託すいのちの輝き」
9月「情景」
日本刺繡・文=草乃しずか(日本刺繡作家)忙しい日々の中でも、耳を澄ませて風の音や鳥のさえずりを聞き、朝露に濡れた瑞々しい葉に目を向ける。夕暮れには赤く染まった空に揺れるススキの穂に幼い頃を思い出し、たなびく雲や月を眺めるすると、心の中にゆったりとした情景が浮かびます。
日常の中に見るこういった風景は、私たちの感性を呼び起こす宝庫。私はいつしか刺繡で表現したい気持ちでいっぱいになり、布の上に絹糸の艶をのせていきます。やがて心の風景が映し出されると、深い感動を覚えます。
自然の風景は、私たちの心を優しく抱き留め、生きていることへの感謝へと導いてくれます。

淡い紫色の野辺に、月ぼかしをクリーム色に染めた、秋草のある情景。ススキの穂は、金糸と銀糸で月あかりに輝いています。萩の枝は、風に揺れるように色糸でぬい切り。キキョウの花は、紫の刺しぬい。秋景色は、揺れる心を思わせます。
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