カルチャー&ホビー

【特別対談、再び】 塩沼亮潤+羽生結弦 流れの中で、生きる(前編)

2026.09.01

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「演技中の空気や音を通して、皆さんの心に僕の祈りが届いてくれたらと思って滑っています」―羽生結弦さん
一瞬たりとも目が離せない舞。

一瞬たりとも目が離せない舞。

挑み、戦い続けた日々を経て辿り着いた今の境地

塩沼 祈りも言動も、なんとかしなければと思って力ずくで強く出ると必ず反動がくるんですよね。流されるままということではなく、自然な流れの中でやっていけると一番いいと思うんです。肩に力を入れすぎず、俯瞰して全体を見通しながら流れの中で生きていく。常に挑み、戦い続けてきた時代を経て、今はそういう修行段階かなと感じています。

羽生 確かに。阿闍梨さんの大峯千日回峰行満行や僕にとってのソチ五輪・平昌五輪のような、人生の中で節目となる出来事は特別なヤマ場ですが、阿闍梨さんにとっての護摩修法や僕のスケート練習など、それこそ毎日が修行、学びだとこの頃思います。


塩沼 もしかしたら私は日々の営みより、過酷な環境の中、たった一人で「真理とは何なのか?」といった問いに向き合っていた千日回峰行をやっていた時のほうが、気持ち的には簡単だったかもしれない。

羽生 わかる気がします。自分を見つめ直して追い込んで、研ぎ澄ましていく大変さはもちろんあるのですが、それを経て、さて、煩悩に溢れた人間社会の中でせっかく見つめ直した自分をどう貫いていくか、磨いていくか。多くの人々と関わる難しさのほうが、意外と精神力を使うのかもしれませんね。

塩沼 私の気持ちを羽生さんがうまく言語化してくれました(笑)。羽生さんは、競技人生の時とプロフィギュアスケーターになられた今と、思いに何か変化がありましたか?

優しい微笑みを浮かべながら滑る羽生さん。白い衣装と相まって、人間界に舞い降りた崇高な存在のよう。週に5日~6日はストレッチを含めて3時間ほどの練習を欠かさない。

優しい微笑みを浮かべながら滑る羽生さん。白い衣装と相まって、人間界に舞い降りた崇高な存在のよう。週に5日~6日はストレッチを含めて3時間ほどの練習を欠かさない。

羽生 実は、僕は競技時代中に転換期があったんです。18年の平昌五輪までは勝つことに意味があると思い、勝利に執着してずっと戦ってきました。でもソチ五輪に続き、平昌五輪で男子シングル66年ぶりの連覇を果たし、2回の金メダルを取ったことで勝利だけでは心が満たされなくなったといいますか。もちろん勝つことへの渇望はありながらも、それまでずっと僕を支え応援してきてくださった方々に対して恩返しをしたい思いが強くなってきたんです。ただ、よりいいものを提供したいという自分の信念をスケートに乗せて滑り始めたことで、競技での勝利を求めることとの両立が難しくなって⋯⋯、平昌五輪のあと、苦しみが生じてしまいました。

塩沼 勝つためだけの演技ならもっとシンプルなのかもしれませんが、非常に難易度の高い技を盛り込みつつ、信念も乗せるわけですから。負担は大きいですよね。

(次回へ続く。)

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この記事の掲載号

『家庭画報』2026年09月号

家庭画報 2026年09月号

撮影/鍋島徳恭 スタイリング/馬場郁雄 ヘア&メイク/岩田麻衣子〈MOC〉 構成・取材・文/小松庸子 撮影協力/アイスリンク仙台

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