名字の世界 姓氏研究家の森岡 浩さんが日本人の名字を紹介します。あなたの意外なルーツが分かるかも?知れば知るほど面白い、名字の世界をお届けします。
連載一覧はこちら>>
難読名字:八乙女(やおとめ)
「八乙女」と書いて「やおとめ」と読みます。とくに難読ではありませんが、かなり珍しい名字です。
『日本国語大辞典』(小学館)で調べてみると、「八乙女」とは本来大嘗祭などの神事の際に八男(やおとこ)とともに神祇官の卜定(ぼくじょう)※ によって奉仕した8人の采女(うねめ)を指していたとあります。次第に神社に奉仕して神楽などを奏する少女を広く「八乙女」というようになり、人数も8人にはこだわらなくなったようです。
つまり、古い時代には「八乙女」は一般的な言葉だったのです。そのため、それに因むとみられる地名も各地にあります。

仙台市泉区に八乙女地名があります。仙台市地下鉄南北線の八乙女駅があるので、仙台市民にとっては馴染みの地名だと思います。
名字の「八乙女」は宮城県と北海道に多く、北海道札幌市付近に集中している「八乙女」は宮城県からの移住者の子孫が多いと思うので、一見「八乙女」名字のルーツも八乙女駅付近だろうと思ってしまいます。
ところが、この八乙女地名は人名に由来しているといいます。
戦国時代、この付近は国分氏の所領でした。その国分氏の家臣に八乙女淡路守盛昌という人物がおり、その館である八乙女館がこの地にありました。そして後に八乙女氏が旧領の実沢村へ移った後も、地名として「八乙女」名が残ったのだといいます。
実沢村があったのは、八乙女駅から北西に3キロほど離れた現在の泉区寺岡・高森付近です。実は、この実沢村南部にはかつて「八乙女」という小地名があり、八乙女氏の名字はここに因むとみられます。
距離的にはそれほど離れてはいませんが、ルーツは八乙女駅付近とはちょっと違うのです。
なお、「八乙女」という地名は東北だけでも岩手県、秋田県、山形県、福島県など各地にあり、仙台市以外の八乙女をルーツとする「八乙女」名字もありそうです。
また、宮城県・北海道に次いで「八乙女」の多い福井県にも、「八乙女」という地名があります。
※古代に亀の甲羅などを使って行われた亀卜によってうらない定めること
・ほかの名字の由来も見る>>
森岡浩/Hiroshi Morioka姓氏研究家。1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部在学中から独学で名字の研究をはじめる。長い歴史をもち、不明なことも多い名字の世界を、歴史学や地名学、民俗学などさまざまな分野からの多角的なアプローチで追求し、文献だけにとらわれない研究を続けている。著書は「全国名字大辞典」など多数。
墨アート製作 書家・越智まみ(
https://esprit-de-mami.com/)