〔特別対談〕五木寛之(作家)×中谷美紀(俳優) 人生の指針──心の赴くままに(後編) 作家歴60年の五木寛之さんが、これまでに対談された人数は新聞や雑誌に掲載された分だけで、なんと約700人。そんな対談の達人、五木さんと今回相対したのは、旅行記やエッセイの執筆もされる、俳優の中谷美紀さんです。自らの心に忠実に生きるお二人には共通する清々しさがありました。
・
特集 五木寛之×中谷美紀「人生の指針」の記事一覧はこちら>>>
日本とヨーロッパ、戦争に対する危機感の違い
──話題は目下、世界中の誰もが無関心ではいられない戦争にも及びました。五木寛之さん(以下、五木) ヨーロッパにいると、戦争が現実であり、今もすぐそばにありますね。
中谷美紀さん(以下、中谷) はい。自宅からウクライナとの国境まで車で6時間です。もしロシアがEUを攻めようと思ったら、陸路でハンガリーやチェコ、スロバキアの辺りを通って、オーストリア経由で周辺国を攻撃することもありえると思うんですね。ですから、いろいろシミュレーションしながら、どうやって生き延びようか常に話し合っています。干ばつに備える意味もあり、水は井戸水と雨水を合わせて4万リットル備蓄しています。食料もりんごや桃、栗などがとれるのですが、いずれは完全な自立、自給自足を考えないといけないかもしれません。エネルギーは、倒木や間伐材をチップにした木質バイオマスで暖房と給湯をまかない、ソーラーで電気をつくるところまでは準備しました。
ただ、戦時中の映画などを観ますと、水や食料を狙われた農家が、敵に奪われる前に自分たちで焼いてしまうんですね。つまり、備えることがリスクにもなりえるわけで、そう考えたら、もうなるようになれっていう感じもします。日本は島国ですが、脅威が近くにある点は同じかと思いますが、いかがでしょう?
五木 いや、島国である日本と、他国と国境を接している国との差は非常に大きいと思います。危機感が違う。ヨーロッパの人たちの底流には、「このコンサートの最中に、今戦争が始まるかもしれない」といった危機感があると思います。だからこそ、今日という一日を生きるうえでの貪欲さ、一夜の歓楽への情熱が激しい。僕ら日本人はやっぱり、どこかのんきですから(笑)。
中谷 そうかもしれませんね。
五木 そういう危機感は、文化や芸術に対する強い願望にも繫がっていると思いますね。これまでの長い歴史の中で、自国が合併されたり、分割されたりといったことが何度も繰り返されてきた。そして、いつまた今の平和が崩れるかわからない。そういう現実があるわけですから。絶対的な危機感の中だからこそ生まれるアートだとか哲学だとか、そういうものがあるように思うんだけど。
中谷 そうですね。でも、日本も地震などの自然災害からは逃れられませんね。
五木 確かに自然災害はありますが、日本列島が外国に支配されたのは、第2次大戦後が初めてでしょう? それまでも元寇などで外国から攻められることはあったけれど、国土が支配された経験はあまりないですよね。米軍の占領にしても、民主化という言葉のもとで進められたことで、完全な支配とは感じられなかった。
「五木さんのご著書には人生の道標(みちしるべ)となる言葉がたくさんあります」──中谷
ブラウス30万1400円 パンツ30万300円/ともにランバン(コロネット) バングル164万7800円~ リング63万5800円~/ともにフォッぺ(フォッぺジャパン)
中谷 五木さんもいろいろな国に行かれた経験をお持ちですよね。
五木 生まれてまもなく日本列島を離れたわけですから、半分は内側から、半分は外側から自分の国を見ている。そこは中谷さんと通じるところがあるかもしれませんね。僕は日本人は非常に素朴で単純で、そこがいいところでもあり、物足りないところでもあると感じていますが、やはり日本は素晴らしい国だと思いますね。
中谷 はい。多くの外国の方が、日本に憧れて訪日されていますね。
五木 そうです。しかし、今ほど宗教の力が薄らいだ時代はないんじゃないかという気がしているんですけどね。
中谷 その一方で、海外では一神教であるが故の争いも起こっていますよね。日本のように、万物に神が宿るというふうに思えば、そんなに簡単に人を殺めることはできないはずですよね。どうしてこのようなことになるのでしょうか。
五木 最終的に、生きるということは、矛盾を生きることだと思うところがありますね。中谷さんがおっしゃったような解決できない問題を、ずっと抱えながら僕らは生きていくわけです。
中谷 五木さんのお言葉は、この混迷の時代、不確実な時代における一縷の光明といいますか……。普遍的で、どの世代にとっても、人生の道標となる言葉がたくさんあって、ご著書を拝読していると涙が出てきます。
五木 ありがとう。僕も中谷さんのご本に接する機会を得られて、ありがたいと思っています。「われ以外みなわが師」といった人がありますが、本当に人の本を読むときはいつもその心境ですから。もう少し若かったら、オーストリアに行ったときにぜひ会いましょうといえるんだけど(笑)。
中谷 ぜひ、おいでください。ウィーンでお待ちしております。
オーストリアの自宅で庭仕事をする中谷さんはとても楽しそう。中谷さんのインスタグラム(mikinakatanioffiziell)より。
五木寛之( いつき・ひろゆき)1932年福岡県生まれ。子ども時代を日本統治下の朝鮮で過ごす。早稲田大学ロシア文学科中退。1966年「さらばモスクワ愚連隊」で作家デビュー。1967年「蒼ざめた馬を見よ」で直木賞受賞。代表作に『青春の門』『親鸞』(ともに講談社)など。最新作は『大河の一滴 最終章』(幻冬舎)。日本芸術院会員。
中谷美紀( なかたに・みき)1976年東京都生まれ。1993年に俳優デビュー。映画『嫌われ松子の一生』(2006年)で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞。初舞台『猟銃』(2011年)で紀伊國屋演劇賞個人賞などを受賞。2016年、2023年の再演も好評を博す。最新刊は『大草原の小さな農家』(幻冬舎文庫)。
中谷さんが人生の指針とする五木さんのご著書
『林住期』五木寛之 著 幻冬舎文庫
(
この特集の記事一覧はこちらから>>)
[中谷さん衣装]シャツ27万円(参考価格) スカート69万円/ともにディオール(クリスチャン ディオール) シングルピアス(右耳)43万円 ネックレス175万円 リング(指先から)46万2000円 115万円 23万5000円/すべてディオール ファイン ジュエリー(クリスチャン ディオール)