「傷ついた体をいたわりつつ、自分なりに最後まで仕事をしたい」──五木
「中谷さんの本を読み続けて、3日間仕事にならなかった(笑)」と五木さん。
中谷 これから少しずつ畑仕事をしていこうと思っているんですが、その畑仕事ができなくなって、自分でご飯が食べられなくなったら、ぼちぼちかなって。夫に話しましたら、私が先に死んだら、遺体に会うつもりはないっていうんですよ。
五木 ご本にも書かれていましたね。そのことを。
中谷 不思議なんですよ。ドイツ人だからなのか、西ドイツ人の特徴なのか、まだそれはわからないんです。
五木 「ザッハリッヒ」とかいうんじゃないかな。要するに、命がなくなって死んだ人は、もうその人ではないわけですから。
中谷 なるほど。
五木 でも、日本の場合は、亡くなった人に花を手向けたり、顔を見て声をかけたりしますよね。僕もお葬式で、「お会いになりますか」と案内されて、お別れをいったりします。中谷さんのご主人はそういうことはなさらないとおっしゃる。
中谷 家族であっても、死んだ人には会いたくないんだそうです。
五木 生きてる間が人間だ、ということなんでしょうね。あなたはその言葉を驚きつつも受け止められたのですね。
中谷 この世にはさまざまな考え方があるものだなと思いましたね。インドを旅したとき、現地の仏教徒の方から「お墓参りなんてしたことがない」と聞きました。そのときも驚いたのですが、考えてみると、もしも四十九日で魂が旅立つなら、お墓にはいないわけですよね。
五木 浄土にいるわけだから。
中谷 そうすると、お墓参りの習慣というのは、儒教からきているのか、祖先崇拝からきているのか、土着の信仰からなのか。それを知りたいと思うんですけれども。
五木 昔からいろんな先達(せんだつ)が悩んできた問題ですね。
中谷 自分のお墓についても考えるようになって、今は自宅の庭に散骨するのもいいかなと思っています。先生のご著書にありましたが、親鸞は自分が死んだら魚に食べさせるよういったものの、お弟子さんがその願いを叶えてくれなかったんですよね? 鴨川でしたか。
五木 そうそう。親鸞は自分が死んだら、鴨川の水に流して魚の餌にしてくれといったんだけど。
中谷 弟子としてはできませんよね。
五木 散骨や樹木葬は日本人独自の考え方だと思いますね。自然に還る、還って生き続ける、という感じでしょうか。
・後編へ続く(8/19公開)予定
五木寛之( いつき・ひろゆき)1932年福岡県生まれ。子ども時代を日本統治下の朝鮮で過ごす。早稲田大学ロシア文学科中退。1966年「さらばモスクワ愚連隊」で作家デビュー。1967年「蒼ざめた馬を見よ」で直木賞受賞。代表作に『青春の門』『親鸞』(ともに講談社)など。最新作は『大河の一滴 最終章』(幻冬舎)。日本芸術院会員。
中谷美紀( なかたに・みき)1976年東京都生まれ。1993年に俳優デビュー。映画『嫌われ松子の一生』(2006年)で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞。初舞台『猟銃』(2011年)で紀伊國屋演劇賞個人賞などを受賞。2016年、2023年の再演も好評を博す。最新刊は『大草原の小さな農家』(幻冬舎文庫)。
中谷さんが人生の指針とする五木さんのご著書
『林住期』五木寛之 著 幻冬舎文庫
(次回へ続く。
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