名字の世界 姓氏研究家の森岡 浩さんが日本人の名字を紹介します。あなたの意外なルーツが分かるかも?知れば知るほど面白い、名字の世界をお届けします。
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大沢(おおさわ)
「大沢」は旧字体を使用して「大澤」とも書き、いずれも文字通り「大きな沢」をルーツとする地形由来のものです。
「沢」とは、山間部を流れる比較的小さな川のことです。そのなかで比較的大きなものが「大沢」です。そもそも中世において「沢」はとても住みやすい場所でした。
ガスや電気はもちろん、水道もない時代、人は水や燃料を自力で調達する必要がありました。きれいな水の流れる「沢」では簡単に水を汲むことができます。沢には魚も泳いでおり食料を調達することもできます。
また、沢が流れているのは山間部ですから、少し山の中に分け入れば枯れ木や枝などの柴も手に入ります。こうした柴は燃料として重宝しました。
さらに重要なのは、沢があるのは基本的に谷間だということです。戦乱の絶えなかった中世、平地のど真ん中に住んでいるといつどこから戦乱に巻き込まれるかもしれません。その点、谷間に住んでいれば谷の入り口さえ警戒していればいいのです。そして谷の入り口に敵が押し寄せてくれば、谷間の両側の山に逃げ込むことができました。こうして戦乱を避け、落ち着いたらまた戻ってくればいいのです。
こうした便利な沢のなかでも、「大きな沢」はとても人が住みやすい場所だったと思います。
そして、こうした「大沢」という場所は、そのまま「大沢」という地名にもなりました。そのため、各地に「大沢」地名があり、それらからも「大沢」という名字が生まれています。
歴史上最も有名な大沢家は、江戸時代に幕府の高家をつとめた旗本の大沢家です。高家とは朝廷関係の儀式典礼を司った役職で、名家の一族がつとめました。旗本大沢家も公家持明院家の一族と伝える遠江国の名家で、南北朝時代に堀江城を築城し、戦国時代は今川氏に仕え浜名湖の水上権を支配していました。この他にも、各地の地名をルーツとする武家の大沢家がいたことが知られています。
現在は東日本に多く、関東西部から長野県にかけてと東北北部に集中しています。なかでも岩手県九戸郡野田村では村の最多名字が「大沢」となっています。
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森岡浩/Hiroshi Morioka姓氏研究家。1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部在学中から独学で名字の研究をはじめる。長い歴史をもち、不明なことも多い名字の世界を、歴史学や地名学、民俗学などさまざまな分野からの多角的なアプローチで追求し、文献だけにとらわれない研究を続けている。著書は「全国名字大辞典」など多数。
墨アート製作 書家・越智まみ(
https://esprit-de-mami.com/)