空を見上げて365 私たちの身近にある空には未知の魅力や不思議が詰まっています。誰かに話してみたくなるような空の世界を、雲研究者の荒木健太郎さんが案内します。一緒に今日の空を見上げてみませんか。
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「余所(よそ)の夕立」
夏の夕方の激しい雨、「夕立」にまつわる言葉に、「余所(よそ)の夕立」があります。
『雨のことば辞典』によれば、この言葉は他の場所で起こったことにより迷惑や苦痛を受けることを指す言葉とされています。夕立で雨の降った場所では雨の蒸発に伴う気化熱などで空気が冷やされて涼しくなり、田畑も雨で潤います。一方、夕立は
積乱雲などにより局地的に降る雨のため、夕立のすぐ近くで雨の降らなかった場所では、蒸し暑くなり、潤いもない、と説明されています。
一般的に、近くで夕立が発生すると、積乱雲から冷たい風が吹き、雨の降っていない場所にも涼気が届くことが多くあります。鎌倉時代初期の歌人・藤原良経(1169年~1206年)は「すぎふかき かた山陰の 下すずみ よそにぞすぐる ゆふだちの空」と詠んでいます。杉の木立の深い山陰で涼んでいると、ほかの場所の夕立による涼しさを感じるという意味です。そこには、迷惑というより、余所の夕立の気配を味わう様子がうかがえます。
では、「余所の夕立」がどのような状況で起こるか考えてみると、夕立をもたらす積乱雲に吹き込む暖湿気が強い場合が挙げられます。例えば関東地方では夕立の原因の一つに、夕方にかけて陸に吹き込む海風があります。通常海風は気温がやや低く湿っていますが、仮に台風や高気圧の位置関係で夕方にかけて暖湿気の流入が強まる場合、近くの夕立に伴う冷気が届かずに蒸し暑い状況が維持されるかもしれません。
空にまつわる言葉の背景を考察すると、想像が膨らんで楽しいものですね。一方、夕立による影響は、そのときの気象状況だけでなく、そのときその場所にいる人の状況によっても感じ方が変わると思います。この夏、みなさんが余所の夕立に出合ったらどう感じるか、ぜひ体感してみてください。
写真/荒木健太郎
監修/荒木 健太郎 Kentaro Araki雲研究者・気象庁気象研究所主任研究官・学術博士。専門は雲科学・気象学。防災・減災のために、災害をもたらす雲の仕組みを研究している。映画『天気の子』気象監修。『情熱大陸』『ドラえもん』『マツコの知らない世界』など出演多数。著書に『すごすぎる天気の図鑑』シリーズなど。
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YouTube文/佐々木 恭子 Kyoko Sasaki気象予報士・防災士。合同会社てんコロ.代表。民間気象会社で予報業務を担当、気象予報士受験生向けのスクール主宰。著書に『眠れなくなるほど面白い 図解 天気の話』(日本文芸社)など。
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YouTube●参考文献/『雨のことば図鑑』倉嶋厚・原田稔編著(講談社)、『最高にすごすぎる天気の図鑑』荒木健太郎著(KADOKAWA)、『新日本古典文学大系 中世和歌集 鎌倉編』(岩波書店)