あぢさゐやきのふの手紙はや古ぶ
橋本多佳子
選・文=夏井いつき(俳人・エッセイスト)旅の途上、便りや絵はがきを送ろうと思い立つことがある。が、いざ記してみるとどこか自分の心にそぐわない感じがして、結局出さずじまいになる。この句もそんな心持ちなのかとも思えば、大切な人から届いた手紙かもしれないとも思う。
嬉しくて何度も何度も読み返しているうちに、もう次の手紙が欲しくなる。そんな恋する頃の感情がふっと蘇ったりもする。上五に取り合わせた季語「あぢさゐ」に、移ろいやすい心の色を投影しつつ、鮮やかに咲きつづける佳句だ。
●橋本多佳子 俳人(1899 ~ 1963)。高浜虚子、山口誓子に師事。俳句の表記は『橋本多佳子全集 第一巻』(立風書房/ 1989 年)に準じた。
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