連載「絹糸に託すいのちの輝き」
5月「艶」
日本刺繡・文=草乃しずか(日本刺繡作家)喜びや悲しみといった感情は、幾度となく訪れて、形を変えながら重なり合い、私たちの心を支配していきます。辛さを乗り越えた先に得た幸福感は、心の「艶」といえるでしょうか。
想いが広がり、深まると、心は色彩豊かな艶で満ちていきますが、私はそれを絹糸に託して表現しています。
蚕のたんぱく質成分を含んだ絹糸は、生命そのものの輝きがあり、刺繡作品に光を当てると、特有の光沢を見せてくれます。絹糸に触れると、生命に対する愛おしい気持ちが湧き出てきて、いつしか祈りになるのです。
春が訪れると、藤は薄紫の世界を繰り広げますが、自分の近くにあるものにつかまって蔓を伸ばし、一生懸命咲こうとするひたむきな美しさがあります。儚くも、貴い艶あるその姿に感動せずにはいられません。

花の紫色は、濃淡のぼかしと、金の輪郭という2つの方法で表現しました。葉は刺しぬいとまつりぬいで技法を変えて、軽やかさを出しています。風にゆれる蔓は、銀糸で駒取りをしました。
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